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法律でひもとく介護事故

テーマ2 職員のついている送迎時の事故責任

質問

 雨の日の病院の付き添いの最中に、Bさんが足を滑らせて転び骨折しました。Bさんから訴えられただけでなく、Bさんを介護するために会社を辞めた娘さんからも重ねて損害賠償を求められました。どこまで責任を負えばいいのでしょうか?

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回答

 介護サービスの提供会社は、骨折したBさんに対し、介護契約の債務不履行(安全配慮義務)または不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償責任を負う場合があります。
 また、会社を辞めたBさんの娘さんに対しては、娘さんがBさんの介護のために会社を退職したことが認められ、骨折後のBさんの要介護の程度にかんがみて娘さんによる介護がなければ生活することができないと認められるなど、Bさんの事故と退職によって娘さんに生じた損害との間に因果関係があると認められる場合には、娘さんに対しても損害賠償責任を負うことになるでしょう。

解説

1.債務不履行責任(安全配慮義務)と不法行為責任(使用者責任)とはどう違うのでしょうか?

 債務不履行責任は、契約関係にある当事者間において、当事者の一方が、契約に基づき果たすべき義務を果たさない場合に、他方当事者に発生した損害を賠償する責任です。
 これに対し、不法行為責任は、契約関係にない当事者間において、一方当事者が、不注意(過失)若しくはわざと(故意)した行為によって他方当事者に発生させた損害を賠償する義務です。
 介護サービスの提供会社とBさんとの間には、介護契約が存在します。
 他方、実際に介護にあたった介護士とBさんとの間には契約関係がありません。そこで、介護士の行為に過失がある場合、介護士はBさんに対し不法行為責任を負います。そして、介護士を雇用している介護サービス会社は、その介護士を雇用している者としての責任を負うことになるのです(使用者責任)。

2.介護士の不注意

 類似の裁判例(脚注1)では、介護士の債務不履行責任が認められています。
 類似の裁判例は、雨の日、病院の出口付近で待機させていた要介護者を介護士が歩行介助して連れ出そうとした際、要介護者が転倒したという事案です。
 裁判例では、①介護事業責任者が,要介護者との間で、要介護者の娘さんらからの要望を受け、要介護者が室外を歩行するときは腕を組むなどして必ず身体に触れて介助をすることを取り決めていたこと、②かかる取り決めの内容を実際に介助する介護士も知っていたこと、③介護事業責任者及び介護士はいずれも要介護者が転倒しやすいことを知っていたこと、④事故当時、雨のため要介護者を留まらせた建物の出入り口付近は滑りやすくなっていたと予想できることから、介護士は、自らの身体の自由を確保したうえ、要介護者の腕を組み、腰に回すかあるいは身体を密着させて転倒しないように病院外に出るべき義務があったと認定しました。
 しかし、裁判例の介護士は、左手で雨傘を持ち、肩に透析バッグを掛け、洗濯物を入れた袋を左腕に引っかけた状態で、右腕につかまってもらうために右腕を曲げた状態で要介護者の前に差し出しただけでした。
 そこで、裁判所は、介護士が身体を密着させて歩行を介助するという義務を怠ったと判断したのです。
 このため、裁判所は、要介護者と契約関係にある介護事業者に、契約上の債務不履行責任があると認めたのです。

3.Bさんは、何を損害として主張し、その賠償を求めることができるのでしょうか。

 介護事業者は、Bさんが骨折の治療のために支払った入院治療費を賠償しなければなりません。
 また、Bさんの骨折により、Bさんの介護費用が増加した場合、その増加分につき、事故との因果関係が認められる範囲においては損害賠償義務を負います。
 さらに、介護事業者は、Bさんが骨折によって被った精神的苦痛を慰謝するものとして慰謝料を支払わなければならないことになるでしょう。

4.Bさんの娘さんに対しても損害を賠償しなければならないのでしょうか?

 債務不履行責任を負う介護事業者が負担すべき損害の範囲は、介護事業者の債務不履行と因果関係があると認められる部分に限られます。

(1) 逸失利益について
 逸失利益とは、事故がなく娘さんが会社を辞めなければ得られたであろう利益のことをいいます。具体的には、娘さんが会社を辞めていなければ得られたであろうお給料等を意味します。
 先の裁判例では、会社の取締役であった娘さんの退職理由の主な目的が怪我をした母親の介護であったことは認めつつ①娘さんの退職後新たな取締役を選任していないこと、②退社した会社は多額の不良債権を抱えて資本提携していたこと、③Bさんについては、事故後手厚い看護体制がしかれていることを理由として娘さんの退社により生じた損害については、介護事業者の債務不履行と因果関係がないと判断され、娘さんの逸失利益としての損害賠償請求は認められませんでした。
 すなわち、裁判所は、①②の事実から、娘さんの退職理由は会社の経営状態の悪化という理由もあったであろうと推認し、③の事実から必ずしも娘さんが会社を辞めなければならなかったような状態ではなく、娘さんが会社を辞める必要は必ずしもなかったと判断し、事故と娘さんが会社を辞めたこととの間に因果関係はないと判断したのです。
 したがって、Bさんの看護体制が十分でなく、娘さんの手伝いがなければ介護が成り立たないという場合であれば、因果関係が認められ、娘さんの会社を辞めたことによる損害まで賠償しなければならないという事態も十分に考えられます。

(2) 慰謝料について
 Bさんの傷害について、娘さん自身の慰謝料を認める直接の法律はありません。しかし、判例上(脚注2)、Bさんが傷害を負ったことにより、娘さんがBさんの生命侵害の場合に比肩することができるような精神上の苦痛を受けたといえる場合には民法709条、710条に基づいて慰謝料を請求することができるとされています。
 先ほどご紹介の裁判例では、娘さんに固有の慰謝料を認めるほどの事情はないとしてこれを否定しました。

脚注

  • 東京地裁平成17年6月7日判決。
  • 最高裁昭和33年8月5日判決。

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