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6.居宅介護で介護中の事故

質問

 居宅サービス事業者から派遣されたホームヘルパーが介助している寝たきり状態のEさんが、足を痛がります。
 検査の結果、大腿骨頸部骨折とわかりました。これが介助によるものなのか、介助と関係なく骨折したものなのか不明ですが、Eさんは介助によるものと言います。
 このような場合の責任はどちらにあるのでしょうか?

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回答

 Eさんが、大腿骨頸部骨折によって被った損害の賠償を、居宅サービス事業者に請求しようとする場合、当該骨折が介助によるものであることをEさんにおいて証明しなければなりません。

 仮に、Eさんにおいて当該骨折が介助によるものと証明された場合には、居宅サービス事業者は損害賠償責任を負わなければならない場合もあります。

 しかし、Eさんにおいて当該骨折が介助によるものと証明できず、最終的に介助によるものか否かを判明させることができなかった場合には、居宅サービス事業者において責任を負うことはありません。

解説

1.どのような場合に居宅サービス事業者は責任を負うのでしょうか。

 Eさんを介助するホームヘルパーは、要介護者の体調や健康状態、生活状況を把握し、要介護者に病気や傷害等が発生することのないように介助する義務を負っているといえます。

 したがいまして、このような義務に違反して怪我の防止策を講じなかった等の事情が認められ、かつEさんの骨折が、ホームヘルパーの介助から発生したものと認められる場合には、ホームヘルパーに不注意(過失)があったとして、ホームヘルパーは不法行為責任を負います(民法709条)。

 そして、この場合には、ホームヘルパーを雇っている居宅サービス事業者もホームヘルパーの使用者として損害賠償責任を負います(民法715条)。

2.では、質問の場合のようにいつ骨折したか不明な場合はどのように取り扱われるのでしょうか。

 裁判になった場合には、損害賠償を請求する側、すなわち今回で言えばEさんに「骨折がホームヘルパーの介護によって生じたものである」という事実を主張立証する必要があります。
 このように取り扱われるのは、「損害賠償請求をすることのできる権利」の存在を主張する者が、その権利発生の要件となっている事実を主張すべきと考えられているからです。

 仮にこれと反対に、居宅サービス事業者に、骨折がホームヘルパーの介助によるものでないことを証明させようとすると、居宅サービス事業者は、あらゆる事態を示して、それをすべて否定しなければなりません。
 これは現実にはおよそ不可能といえるでしょう(このような「ない」ことの証明を求めることを、「悪魔の証明」と言います)。

 そして、裁判所では、証明することのできなかった事実はないものと扱って判断します。
 すなわち、裁判所において骨折が介助によるものか否か不明であるという場合には、裁判所は「骨折は、ホームヘルパーの介助によって生じた」という事実を認定することはできません。
 そうすると、Eさんにおいて、「損害賠償請求をすることのできる権利」を発生させるための事実を証明することができなかったことになります。

 この場合、Eさんの損害賠償請求権が認められることはありません。
 ただし、居宅サービス事業者にとってEさんの骨折が介助によって生じたものか否か不明であったとしても、裁判所の目から見れば介助サービスの最中に生じたものと認定できると判断された場合には、居宅サービス事業者が損害賠償責任を負うことになります。

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