認知症ケアのリスクマネジメント
第1回 認知症ケアの現場に多い事故・トラブルとは
◇ポイント2 認知症による事故・トラブルの具体例
介護現場に多い事故といえば、まず転倒・転落が上げられます。これは認知症の人も同様です。しかし認知症の人の事故防止のためには、認知症特有の背景にも目を向けなければなりません。
認知症の人の場合、進行すると平衡感覚にも影響がおよび、筋力はそれほど衰えていなくても身体のバランスを崩して転倒するケースが見られます。また、向精神薬を服用している場合、副作用による「ふらつき」などで転倒しやすくなることもあります。様々な神経系への影響という意味では、嚥下反射の衰えによる誤嚥事故などにも注意が必要です。
加えて注意したいのは、見当識の衰えから来る事故です。例えば、「自分の身体機能」が十分に認識できないため、本当は自力歩行ができないのに、介助なしで突然歩き出し、そのまま転倒するというケースがあります。また、「空間」への認識機能が衰えるゆえに、段差などが認識できずにつまずくなどのケースもあります。とくに、認知症の人の場合、不安や混乱の心理に陥りやすいため、「とっさの行動」をとりやすい傾向があります。そこで身体機能や空間への認識が十分に働かないと、転倒などの事故につながってしまうわけです。
この「とっさの行動」から起こりやすいケースには、徘徊や他者への暴力といったトラブルを上げることもできます。GH(グループホーム)などでは、他の利用者の居室へと入って行って、そこで当事者同士がトラブルになる光景も見られます。こうしたトラブルの多くは、周囲からは「突飛な行動」に見えても、本人にとっては何らかの理由が背景にあったります。
例えば、「徘徊」についても、本人の心理上では「私の家は別にある」とか「私がここにいる理由が分からない」という認識から外に出て行ってしまうわけです。つまり、自分が認識している世界と現実の世界との間にズレが生じ、それを何とか埋めようとする行動がトラブルにつながるといえます。