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第1回 時間をかけて、両親との対話を重ねる

 離れて暮らす親子の取材を始めて20年。「この20年で遠距離介護は、どのように変わりましたか」と聞かれることがあります。2000年に介護保険制度ができ、社会全体で介護を行なおう、という機運は高まりましたが、家族の役割が大きい現状に変わりはありません。遠くの親をどのように支えていこうかと、子の多くが悩みつつ、試行錯誤しています。

 東京都内在住のKさん(52歳・女性)も遠距離介護を続けるひとり。関西地方で暮らす両親はふたり暮らしです。81歳の父親が要介護2の79歳の母親を介護しています。母親は自分でトイレには行くことができますが、家事はすべて父親が担っています。
 普段は優しい父親ですが、ときどき苛立ち、母親を怒鳴りつけます。
 「さっさとご飯を食べなさい。片付かないじゃないか!」
 「そんなことも自分でできないのか!」
 Kさんは2~3週おきに、週末を利用して帰省します。Kさんがいると、父親は穏やかなのですが、それでも何度か母親を怒鳴りつけているところを見ています。

 母親は週に2度デイサービスに通っていますが、ホームヘルプサービスは利用していません。父親が頑として受け入れないのです。「他人が家に入ると、疲れる」
 母親は、父親に遠慮しており「お父さんがいいようにしてくれたらいい」と言います。

 しかし、このままでは父親の負担が大きくなる一方です。父親の負担が増すと、さらに苛立ちは募り、母親に当たることが増えてしまうでしょう。悪循環。
 Kさんは勤務先に事情を話し、来月、パートを半月休ませてもらうことにしました。その間、実家に滞在し、もっとサービスを利用するように父親の説得を試みる予定です。父親は伯父(父親の兄)の言うことはよく聞くので、伯父の家にも行って、父親の説得をお願いするつもりだとか。母親の担当のケアマネジャーとも会う予定でいます。

 「時間をかけて両親とも向き合い、今後のことについても話し合ってきます。母親の介護度がもっと上がれば、施設も選択肢になってくるでしょう。父と母、それぞれの本音を聞きたいと思います」

 Kさんはパートを辞めて、実家に長期滞在することも考えていますが、「それは、最後の手段です」と言います。
 「パート先の上司は理解があり、仕事の内容にもやりがいがあります。できれば続けたい。実家と自宅の往復にも、かなりの費用がかかるので、経済的にも困るんですよね」

 父親、母親、そしてKさん。葛藤や遠慮から、それぞれが、なかなか本音を出しにくいものですが、よりよい環境を構築するには対話を積み重ねるほかありません。
 Kさんたちの話し合いが、スムーズに進みますように。

執筆者プロフィール

太田 差惠子/おおた さえこ

 介護・暮らしジャーナリスト、NPO法人パオッコ理事長。1994年頃より高齢化社会を見すえながらの取材、執筆を開始。
 96年、親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げる。2010年立教大学院にて、介護・社会保障・ワークライフバランスなどを体系立てて学ぶ。「70歳すぎた親をささえる72の方法」「老親介護とお金」「遠距離介護」など著書多数。

関連著書紹介
故郷の親が老いたとき 46の遠距離介護ストーリー
70歳すぎた親をささえる72の方法
老親介護とお金 ビジネスマンの介護心得

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