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親に提案する前にひと呼吸

 遠くで暮らす親。心配しすぎて、子の思いが空回りしてしまうことがあります。大切なのは、何かを提案する際にはひと呼吸して、親の立場になって考えること...。

 東京都内で暮らすYさん(51歳・女性)の実家は愛知県です。3年前に母親は亡くなり、80歳になる父親は7歳の愛犬と暮らしています。ところが、今年1月、父親は肺炎で入院しました。
 この時、「犬の世話」が問題となりました。父親が退院し日常生活に戻れるまでの3週間、Yさんが週末、Yさんの妹が平日、実家に泊まり込みました。

 何とか乗り切れたものの、父親の看病に加えて、犬の世話が必要なのは負担が大きかったことは事実です。今後のことも不安です。Yさんは妹と相談し、父親に犬を手放すことを進言しました。
 ところが、父親は首を縦には振りません。「手放すなんてできない。僕が責任をもって面倒をみる」と言い、愛犬を抱きしめます。
 その様子を見て、Yさんは、自分がとてもひどい提案をしていることに気付きました。愛犬は、Yさんが考えていた以上に、父親にとって大切な存在だったのです。

 とはいえ、今後も緊急事態が起こることはあるでしょう。
 そこでまず、実家の近くで犬を預かってくれるペットホテルを探しました。犬が慣れるよう、二度預けてみました。
 さらに、地域の社会福祉協議会に出かけて、父親の体調が悪いとき代わりに犬の散歩をしてくれるボランティアさんがいないか聞きました。すぐに適当な人はいなかったものの、担当者から「探してみましょう」と心強い言葉をもらえました。
 Yさんは「犬は家族同然ね。最後まで世話をしよう」と前言を撤回。父親は満面の笑みを浮かべたといいます。

 Yさんの話を聞きながら、Sさん親子のことを思い出しました。

 Sさんの父親は79歳で、未だ自家用車を運転します。が、車体のあちこちにキズが...。Sさんは父親に運転免許証の返納を勧めることも考えましたが、車を手放せば、途端に買い物、通院に困ることが予測できます。

 そこでSさんは父親に赤色の車への乗り換えを提案。
 「車にキズがつくのはいいんです。問題なのは、ご近所の方を巻き込んだ事故を起こすこと。田舎なので地域は顔見知りばかり。派手な車だと、『Sさんのおじいさんだ』とよけてもらえるでしょ。交通量も少ないし。ただし、帰省時には横に乗るようにして、危険を感じるようになったら、その時は運転をやめてもらいます」とSさん。
 Sさんの父親は、赤い車が気に入ったらしく、買い物に出かける際にも、赤い車を意識してか洋服を着替えるようになりました。

 現実には、YさんやSさんのところのようにはいかないこともたくさんあるでしょう。遠く離れて暮らしていると、サポートしきれないこともあります。
 けれども、親の人生にとって、大切なモノや大事なコトを取り上げるのは、最終手段です。
 もしも、自分だったら...?
 できる限り、あきらめたくないですよね。

 元気の源を奪ってしまわないよう、親の気持ちに寄り添いたいものです。

 MY介護の広場では、ほかにも「遠距離介護」に関するコンテンツがございます。
 ぜひご活用ください。

【執筆者プロフィール】

太田 差惠子/おおた さえこ

介護・暮らしジャーナリスト、NPO法人パオッコ理事長。
1994年頃より高齢化社会を見すえながらの取材、執筆を開始。
96年、親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げる。
2010年立教大学大学院にて、介護・社会保障・ワークライフバランスなどを体系立てて学ぶ。著書多数。

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