介護をしながら仕事は続けられるのだろうか?
『仕事と介護両立ハンドブック』(公益財団法人日本生産性本部生産性労働情報センター)より抜粋して、3回にわたって紹介いたします。
ある調査で、現在、要介護の親または義理の親の介護をしている40~64歳の人のうち、介護が理由で離職した経験をもつ人が、男性で13%、女性では27%もいるという結果が出ました。
女性に「仕事と育児のどちらを取るか?」と選択を迫ってきた日本社会は、今度は「仕事と介護のどちらを取るか?」と中高年世代に問いかけているようです。
近年、私達の働く環境やライフスタイルは大きく変化しています。シングルの人、世界各地に赴いて仕事をしている人、晩婚で幼い子どもを抱えている人、共働き夫婦など、結婚や生活の形はさまざまです。
そうした変化を背景に、親がいざ介護が必要になったとき、妻や身内に頼るこれまでの介護は成り立たなくなりつつあり、介護問題に直面する男性が増えてくることは間違いありません。
しかしながら、介護をしながら働くことを想定してこなかった日本社会では、会社勤めをしながら、在宅での介護を受け入れることに対応する制度や風土が十分にできていません。
いざ介護が始まったとき、かけがえのない親のためにできるだけのことはしてあげたい、と考えるのは自然なことと思います。しかし、親の介護が続く期間は先が見えません。場合によっては、介護が重篤化し、仕事に支障がでて、退職を考えざるを得ないことがあるかもしれません。
子ども自身にも生活があり老後がありますから安定した収入は必要です。会社としても、働き盛りで中核を担う優秀な社員が親の介護のため退職してしまうことは大きな損失となります。
これからは、男女を問わずすべての人が、生涯の中に家族の介護が起こりうる時代になります。
介護は、働きながら行なうことを念頭において、介護保険制度や民間の介護サービスを利用しながら、家族や地域の人と、みなで分かち合い、介護しながらも自分らしく生きる時代です。高齢者の介護は、個人単位の問題ではなく、地域全体で支えるものだという考えが浸透すれば、例えば定年退職した後のセカンドライフとして成年後見人になる、ボランティアとしてお年寄りの見守りを行なう、シルバー人材センターに登録するなどといった形で地域貢献する人も増えてくるかも知れません。
私達は、「介護と仕事の両立する」時代を走るトップランナーなのです。
【執筆者プロフィール】
新田 香織/にった かおり
グラース社労士事務所代表。社会保険労務士。人事系アウトソーシング会社、社会保険労務士事務所に従事、その後グラース社労士事務所を設立。ワーク・ライフ・バランスを中心にした講演、執筆、コンサルティングを行なう。
関連著書紹介
仕事と介護 両立ハンドブック~コア社員の退職を防ぐ~