利用者・家族等からのハラスメントに対するリスクマネジメント
第3回 ハラスメント事例が発生した場合の対処
<ポイント2>相談ケースの実態を客観的に掘り下げる
次に、「具体的にどのような事象が生じているのか」を聞き取ります。注意したいのは、聞き取る側に「早く真実を明らかにしたい」という焦りが生じると、事実関係の正確な把握が難しくなりがちなことです。特に、以下の2点を対応者として意識すべきでしょう。
第1に、ハラスメントの内容によって、被害者がPTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥っている状況も考えられることです。その場合、「具体的な被害状況」を訴えるだけでも苦痛を伴いがちです。結果として、訴えの内容が氷山の一角になってしまうこともあります。この点を考えたとき、相談者のショック状態によっては「提携する産業医の同席を求める」「外部機関との連携で専門のカウンセラーの協力をあおぐ」ことも必要になります。
第2も相談者の心理状態に起因するものですが、こちらは逆に「被害の訴えが実態よりも過剰になる」ことです。被害者側に悪意はなくても、ショック状態から被害状況が意識下で誇大化するわけです。厄介なのは、本人も「それが真実」と信じ込みやすいこと。もちろん、直観的に「眉唾もの」と感じたとしても、初期相談では真摯に受け止めます。相手の訴えを否定する態度が出てしまうと信頼関係が崩れ、実態の掘り下げに必要な継続的な相談につなぐことが困難になるからです。
仮に被害状況が誇張されている場合、その後の継続的な聞き取りのなかで、客観的な視点から必ず矛盾が生じてくるものです。それまでの間、同じ加害者に対応し、第三者的に目撃した他の従事者の話を収集して「裏」をとりつつ実態に迫っていきます(図を参照)。もし訴えが誇大であったとしても、相談者を責めずに、「本人の心理状態では(誇大表現も)あり得ること」という態度を崩してはなりません。本人への(心理面も含めた)継続的なフォローを進めつつ、組織として実態の掘り下げを整然と進めることが基本です。