法律でひもとく介護事故

テーマ5 誤嚥(ごえん)事故

質問

 特別養護老人ホームで、食事介助中、のどにコンニャクをつまらせ窒息しCさんが死亡しました。誤嚥の場合、損害賠償請求が認められる場合と、認められない場合があると聞きました。どこに違いがあるのでしょうか?
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回答

 誤嚥事故に関する裁判例の多くは、契約から導かれる一定の配慮義務の懈怠責任(脚注1)ではなく、不法行為責任による損害賠償請求を認めています。
 不法行為責任が認められるための重要な要素が介護従事者の不注意(過失)の存在です。
 過失が認められる場合には損害賠償請求も認められますが、過失はなかったと判断された場合には、損害賠償請求も認められません。
 そして、ここにいう不注意(過失)は、一般的な介護従事者であれば誤嚥が発生することを予想することができること(予測可能性)を前提とした予見義務違反、及び誤嚥という結果を回避することができたといえること(結果回避可能性)を前提とした結果回避義務違反をいいます。
 そして、多くの裁判例では、(ⅰ)誤嚥事故発生に至るまでの経緯と(ⅱ)事故発生後の対応に分けて不注意(過失)があったか否かを検討しています。


解説

1.誤嚥事故発生に至るまでの経緯のなかでの過失
  誤嚥事故発生に至るまでの経過のなかでの過失の有無については、次のような事情に着目して判断しています。
(1)誤嚥の予見義務違反
 誤嚥の予見義務違反については、事故に近接した時期の要介護者の嚥下能力、医師から嚥下障害の可能性が指摘、むせたり、咳き込んだりなどの異常その他の症状に着目して判断されています。
 上記判断要素からして、誤嚥の兆候があり、それを認識することができたにもかかわらず、誤嚥の可能性を認識しなかった場合には、誤嚥の予見義務違反があるといえます。
 裁判例(脚注2)は、要介護者にむせるといった症状はあったものの、その症状には波があり、かつその誤嚥をうかがわせる症状はなく、要介護者が食事を全量摂取すること多かった事実から、誤嚥の兆候はなく、認識することができなかった以上、予見義務違反はないと判断しました。
 また、通常は自力で食事をしていた高齢者が誤嚥に陥った事案について予見義務違反はないと判断した判例もあります(脚注3)。

(2)食事介助行為の過失
 質問にありますこんにゃくやはんぺん、かまぼこはそれ自体嚥下障害の患者に向かない食物であると指摘されています(脚注4)。
 裁判例(脚注5)では、このような食物を食べさせるに際しては、とくに細心の注意を払うべきであり、口の中を確認し、また嚥下動作の確認を行う義務があると判断されています。
 したがって、このような確認行為を怠ったといえる場合には、過失があったとして損害賠償が認められます。
 同裁判例では、要介護者が高齢で、飲み込みが悪いことが介護職員に告げられ、記録にも嚥下障害がある旨記載されていた事実も併せて考慮して、こんにゃく等を食べさせる際の確認が不十分であったと判断して過失を認めました。
 このように、こんにゃく等を食物として選択したとしてもそのことから直ちに過失が認定されるわけではありません。こんにゃく等の食物を食べさせたとしても、その際、口の中を十分に確認し、嚥下動作を確認するなどしていた場合には過失はなかったと判断されます。
 ただし、裁判例では、介護職員が要介護者を斜め上から見下ろすような体勢で食事介助をしていたことについて、当該角度では嚥下を十分に確認できなかったはずであると判断して確認が不十分であったとしています。また、「次は何を食べます?」との声かけに応じて口を開けたことから嚥下を完了したと判断したことについても、当該要介護者に軽度の認知症が存するなど理解力に問題があったことから、確認行為を行ったとはいえないと判断しています。
 確認行為を十分に行ったと認められるか否かは、事実に照らして厳格に判断されるのです。
 なお、食事介助については、介助事業者が、①覚醒をきちんと確認しているか、②頸部を前屈させているか、③手、口腔内を清潔にすることを行っているか、④一口ずつ嚥下を確かめているかなどの点を確認し、これらのことが実際に行なわれるように介護を担当する職員を教育、指導すべき注意義務があったと判示し、かかる注意義務に違反したとして損害賠償責任を認めた例もあります(脚注6)。

2.誤嚥事故発生後の対応の過失
 誤嚥事故発生後の対応の過失については、誤嚥事故が極めて重大な結果に直結することから、①迅速かつ適切な応急処置がとられたか否か、②事故後一刻も早く医師若しくは救急車を呼び救急隊員の手に委ねたか否かが問われています。
 (1)①の点の過失を検討した裁判例
 横浜地裁川崎支部平成12年2月23日判決では、救急車を呼ぶまでの間に、バイタルチェック、看護士による心臓マッサージ、家族への電話しかしなかった点をとらえて適切な応急処置がとられたとはいえないとして過失を認めています。
 これに対し、神戸地裁平成16年4月15日判決では、要介護者の誤嚥類型を明らかにしたうえで、当該類型の誤嚥に対する救命措置として、背中をたたき、吸引機で吸引したり、掃除機にノズルを付けた吸引機で吸引したこと、看護士がアンビューバックで人工呼吸をし、心臓マッサージを行なったことに落ち度があったとはいえないと判断しました(①)。
 また、横浜地裁平成12年6月13日判決でも、タッピング、背中をたたく、准看護士による吸引機での吸引などをした事実をもって、「一刻を争う救命救急措置の現場において、複数存在する救命方法の選択は、患者の態様等をふまえて、実施者が適当と思われる方法を適宜選択して実施されるべきものであって、その手段方法が、医学上通常行われる方法で行われていた以上、」「それをもって相当とすべきであると判断されています(①)。
 さらに、エアウェイの挿入などが、介護福祉士が法令上禁止されている医行為に該当する可能性が極めて高いことをもって、エアウェイの挿入などを行なわなかったことについて過失はないと判断した裁判例もあります(横浜地裁平成22年8月26日)。

(2)②の点の過失を検討した裁判例
 東京地裁平成19年5月28日判決では、当該施設には専門的な医療設備がなく、介護職員らが医師免許や看護士資格を有せず、医療に関する専門的な技術や知識を有していなかったことから、誤嚥をしたと疑われる場合に、介護職員らが応急処置をしたとしても、気道内の異物が完全に除去されたか否かを的確に判断することは困難であったのであるから、介護職員らは、引き続き経過を観察し、再度様態が急変した場合には、直ちに専門家である嘱託医に連絡をして適切な処置を施すよう求めたり、救急車の出動を直ちに要請すべき義務を負っていたと認定しました。
 そして、同裁判例では、介護職員らが注意深く経過を観察せず、急変後救急車の出動を要請しなかったことから、介護職員らに不注意があったと判断しました。これは、②に加えて、経過観察義務を認めた点に大きな特徴があるといえます。


脚注
1 東京地裁平成19年5月28日判決(判例時報1991号81頁)では、一定の契約上の義務に言及していますが、結論として不法行為に基づく損害賠償請求を認めています。
2 神戸地裁平成16年4月15日判決。
3 東京地裁平成22年7月28日判決。ただし、本判決は契約上の義務違反の有無を検討しています。
4 かかる食物を選択したことから直ちに過失があったと判断されているのではありません。
5 名古屋地裁平成16年7月30日判決
6 松山地裁平成20年9月24日判決

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