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~家庭科教育の第一人者 
荒井紀子先生に聞く~

中学校での「高齢者」「介護」の
授業づくり

更新日:2023年10月22日
「荒井紀子先生」の画像

荒井あらい 紀子のりこ

福井大学名誉教授。博士(学術)。日本家庭科教育学会 元会長。

1989年から福井大学で家庭科教育の研究と教員養成に携わり、この間、大学附属特別支援学校と附属中学校の校長を務める。平成30年度版文部科学省「高等学校学習指導要領家庭編」専門的作業協力者。
専門は家庭科カリキュラム理論と授業研究、市民性教育、北欧・米国の家庭科カリキュラム研究など。

編著「新版 生活主体を育むー探究する力をつける家庭科」(ドメス出版)、編著「新しい問題解決学習ーPlan Do Seeから批判的リテラシーの学びへ」(教育図書)、編著「SDGsと家庭科カリキュラム・デザインー探究的で深い学びを暮らしの場からつくる」(教育図書)ほか

家庭科教育における「高齢者」「介護」についての荒井先生の取組みについて教えてください

 高齢者の学習は、平成元(1989)年の学習指導要領改訂で高校「家庭」の内容に入りました。以来、学校現場ではさまざまな授業が実践されてきており、私も先生方や院生と一緒に授業開発や実践に取り組んできました。

 例えば、高齢者理解の学習では、本サイトのように体験グッズを用いたり、体が不自由になっても車椅子で社会的に活動する高齢女性の映像や北欧の福祉のVTRを視聴したりしました。また、高齢者の生活支援の現状を在宅と施設の両方について、グループでテーマを決めて調査しました。
 具体的には、生徒同士で疑問や課題を出し合い、調べたい内容を決めて、実際に市町の福祉課や施設を訪問して調査し、結果を発表しあう学習も実践しました。

 大事にしてきたのは、生徒が高齢期を否定的に捉えず、さまざまな高齢者の暮らしを知ってともに生きる社会のイメージをもてるようにすることです。

 その際に、

  • ①残存能力の尊重(加齢により身体に不自由が生じても今ある力を最大限活かす)
  • ②継続性の尊重(身体が不自由になったり生活の場がかわってもこれまでの生活との連続性に配慮する)
  • ③自己決定の尊重(本人の決定権や意思を大事にする)
の3点(デンマークの高齢者福祉三原則)を念頭に置き、基本的な人権への理解が深まるよう配慮しました。

中学生が「高齢者」「介護」について学ぶ意義について教えてください

 平成29(2017)年の学習指導要領から、中学校技術・家庭科の家庭分野で、高齢者など地域の人々と協働することに関する内容が新設されました。

 中学生は、授業や各種行事、部活動など学校で過ごす時間が長く、放課後や休日も塾通いなどで、地域とのかかわりは持ちにくい現状があります。一方で理解力、知力、体力ともに成長し、地域の高齢者と協働したり、支えたりする力はすでに十分に備わっています。

 家庭科で高齢者の身体の特徴や簡単な介護方法を学んだり、それを生かした交流や地域に目を向ける学習経験を積むことは、生徒の視野を広げるとともに、ささやかでも人の役に立つ経験は、思春期の生徒たちにとって、自信や自尊感情を高めることにつながるでしょう。

授業の工夫や指導方法のポイントについて教えてください

 平成29年改訂で提起された資質・能力の3つの柱

  • 「知識・技能」(何を知っているか、何ができるか)
  • 「思考力・判断力」(理解していること・できることをどう使うか)
  • 「学びに向かう力、人間性」(どのように社会・世界にかかわり、よりよい人生を送るか)
は互いに関係しています。

 特に体験して感じたり気づいたことは、知識への関心を高め、自分はどうするかを生徒が考えるきっかけになります。

 高齢者や高齢期は多くの中学生にとって身近な問題ではありませんが、本サイトのように実際にやってみる体験から気付くことはたくさんあるはずです。
 このほか、「高齢者の子ども時代の衣食住や遊び(漫画やアニメも含む)について質問する」「ビデオメッセージで交流する」など間接的な体験の工夫もいろいろできそうです。地域の調査では、バリアフリーなどの住居の学習へとつなげることも出来ます。

 家族や衣食住の生活分野などとの領域横断的な学習の流れをつくり、「課題と実践」の調べ学習とも組み合わせながら学習をデザインしてみてください。

現場の先生へメッセージをお願いします

 中学生の生活圏には、乳幼児から高齢者まで、また障がいのある人や国籍の異なる人、性的マイノリティなど多様な人々が暮らしています。
 家庭科の高齢者の学習は、そうした地域に住むひとに直接的、間接的に出会い、理解を深め、自分にできることや暮らしやすい地域について考えたりすることとつながる学習です。

 また、幼児の学習で自分の生育を振り返るように、高齢者の学習を通して年を取ることへの想像力を広げ、自分も社会の一員としてできることがあることに気付く経験は、確実に生徒の成長を後押しします。

 地域とのネットワークも時間のかかることですが、どの地域も高齢者は身近にいますので、少しずつ連携しながら、授業で生徒が「リアル」を体験できるよう、知恵を絞ってみてください。

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