高齢者が暮らしやすい社会・まちに
ついて考えてみよう
~高齢者の視点を体験する活動から~
監修:荒井 紀子(福井大学名誉教授)
本コンテンツは、高齢者について体験的に学ぶ授業(中学生対象)での使用を目的とした学習用教材です。
1.「高齢者」のイメージを豊かに
一般的には65歳以上の人を「高齢者」と呼びます。65歳の人も100歳の人も高齢者です。
年齢に限ったことではないですが、ひとくちに「高齢者」といっても、一人ひとり違っています。
日本人の平均寿命は男性81.41歳、女性87.45歳ですが、健康寿命(※)は男性72.68歳、女性75.38歳となっています。
「高齢者」に対して、老化によってさまざまな能力が低下するというイメージをもってしまいがちですが、これまでの経験を活かして活動したり、新しいことに挑戦している高齢者もいます。
※健康寿命:健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間。平均寿命、健康寿命ともに2019年の数値。
①元気な高齢者
多くの高齢者は元気で活動的な生活を送っています。仕事をしている人や地域の町内会やボランティア活動など社会的な役割を持った生活をしています。
②支援が必要な高齢者
(めやすとして70代後半以上)
目や耳の衰えや体を動かすことが少しずつ難しくなり、家事や日常生活の手助けが必要になってきます。
③介護が必要な高齢者
(めやすとして80代以上)
心身の機能の低下により、着替えや入浴、トイレなどの介護が必要になってきます。
②③で示した年齢はあくまでもめやすで、発症する病気などの状況によって個人差があります。
また手助けや介護が必要な高齢者もできることはたくさんあり、生活の中で役割や生きがいをもって生活しています。
この授業では「②支援が必要な高齢者」の体験をすることで、自分自身がどのような手助けをできるのか、また、高齢者が安心して暮らせる社会・まちにするためにはどんなことが必要か考えてみましょう。
2.高齢者疑似体験の準備
高齢者疑似体験キットを装着して日常生活の場面を体験してみることで、加齢による身体的な変化(筋力、視力、聴力などの低下)や日常生活における困難や不安を疑似的に体験することができます。
「高齢者疑似体験キット」を使用する場合
「高齢者疑似体験キット」とは、加齢による身体的な変化(筋力・視力・聴力などが低下し、関節や指先も動かしにくくなる)を体験するために開発された教材です。
高齢者疑似体験キットを装着することで高齢者の状況を体験し、高齢者の立場になって考えてみましょう。

- ゴーグル
視覚の変化を体験します - おもり付きのベスト
動きにくさを体験します - 手袋・軍手
指先の動かしにくさを体験します - 膝サポーター
膝関節の動かしにくさを体験します - 杖
歩行の際の助けになります - イヤーマフ
聴覚の変化を体験します - 肘サポーター
肘関節の動かしにくさを体験します - 手首おもり
腕の筋力の低下を体験します - 前かがみ姿勢ベルト
腰の曲がった状態を体験します - 足首おもり
脚の筋力の低下を体験します
高齢者疑似体験キットを
正しく装着しましょう
- 製品やメーカーによってキットの内容は違います。説明書を読んで、正しく装着しましょう。
部位によってはひとりで装着するのが難しいので、体験者どうし協力しあいましょう。 - ゴーグルは複数のシートを替えることで、白内障や
視野狭窄 などさまざまな視覚障がいを体験することができます。
視覚障がいの原因・症状については以下のコンテンツで詳しく知ることができます。
「高齢者疑似体験キット」を自作する場合
身のまわりにあるもの(100円ショップやホームセンターで買えるもの)を使って、高齢者の疑似体験を行ないます。
準備する物品の例
- 視覚障がい
安全メガネ(保護メガネ)に黒い紙やプチプチシート、黄色いセロファンなどを貼り付ける。 - 聴覚障がい
耳栓、イヤーマフ(耳当て) - 指先の使いづらさ
軍手、ゴム手袋(重ねて付ける) - 関節の動かしづらさ
膝や肘のサポーター(重ねて付ける)、筒状にしたダンボール - 筋力の低下
リストウェイト、アンクルウェイト - 前かがみ(腰の曲がり)
万能ベルト(犬の首輪などでも代用可)を膝下に通してサイズ調整をする。両側がフックになっているショルダーベルトを首の後ろに通し、体をおこせない長さに調整して、膝下に通したベルトと接続する。サイズ調整が難しいが、ビニール紐を使って代用することも可能。
身のまわりにあるものから
作成した高齢者疑似体験キット

「①視覚障がい」の自作例
黒い紙やシートを安全メガネのレンズの形にあわせて切りとり、貼り付ける。黒い紙の一部に切りこみをいれることで、視野の欠けた状態を体験できる。

「⑥前かがみ(腰の曲がり)」の自作例
膝下に巻いた万能ベルトのリングにショルダーベルトのフックをかける。ショルダーベルトは首の後ろに回して、体を起こせない長さに調整する。
3.体験してみよう(ワーク)
<体験1>レジで小銭の支払いをする

- 「高齢者」役、「店員」役、「列の後ろの客」役を決めます。
- 「店員」役が「高齢者」役に支払いの金額を伝えます(例:1,783円になります)。
- 「高齢者」役は財布から小銭で支払いをします。「列の後ろの客」役は「高齢者」役が支払いをするのを見ながら待ちます。
<体験2>道路を歩いていてすれ違う

- 「高齢者」役、「すれ違う人」役、「周りで見ている人」役を決めます。
- 教室の机で歩くコースをつくり、椅子を障害物(道路の立て看板や電信柱のイメージ)として配置します。
- 「高齢者」役の人は障害物を避けながら歩き、角を曲がります。
- 「すれ違う人」は角を曲がってきた高齢者とぎりぎりですれ違います。
- 「周りで見ている人」役は、「高齢者」役の動きや危険の認識(障害物、すれ違う人)について観察します。
4.体験をもとに考えてみよう
(ワーク)
①体験した感想はどうでしたか?高齢者の身体面(不自由さ)や心理面(不安)から考えたことを書きましょう。
その後、それぞれの役の感想について話しあってみましょう。
②歳をとることで、どのような身体の変化があるでしょうか。
「視力は?」「聴力は?」「指先は?」「歩く動作は?」など、考えてみましょう。
5.まちに出て見つけてみよう
(課外活動)
高齢者疑似体験で考えたこと・感じたことをもとに、身近なまちでの高齢者の様子や高齢者にとって不便な場所を見つけてみましょう。
高齢者にとって不便な場所については、可能であれば写真をとってみましょう(スーパーやコンビニなど公共の場所ではないところでは撮影の許可を得る必要があるので注意しましょう)。
まちで見かけた高齢者の様子
- 商店街やスーパー、コンビニなどで見かけた高齢者の様子
- まちなかを歩いていたり、電車やバスなどに乗っている時の高齢者の様子 など
まちで見かけた不便な場所
(高齢者が困っている場所)
- 道路や交差点、建物(お店)のなか、交通機関(電車やバス) など
6.みんながまちで見つけてきた事を共有し、考えてみよう
(ワーク)
①課外活動で見つけてきたことをグループで共有してみよう
- まちで見かけた高齢者の様子
- まちで見かけた不便な場所(高齢者が困っている場所)
②高齢者疑似体験やまちで見つけたことをふりかえって、あなたは身近にいる高齢者に対して何ができるでしょうか?
③私たちの社会やまちは高齢者にとって暮らしやすくなっているでしょうか?
「社会のあり方」「まちづくり」「地域社会での人間関係」などの観点で、どのようにすれば高齢者が暮らしやすくなるでしょうか?
高齢者にやさしい社会は、高齢者に限らずさまざまな人にとってもやさしい社会であることもふまえて考えてみましょう。