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認知症と「生活習慣病」の研究者 羽生春夫先生に聞く

広場

メディア等で「認知症」と「糖尿病」の関係が取り上げられていますね。

羽生

そうですね。糖尿病は、認知症を引き起こす主要な疾病であるアルツハイマー病の発症に深くかかわっています。糖尿病は代表的な「生活習慣病」ですが、最近の研究によって糖尿病に限らず高血圧・脂質異常症・肥満などの「生活習慣病」も認知症の発症を促進する危険因子であることがわかってきました。

広場

やはり、糖尿病とアルツハイマー病が密接に結びついているということですね。

羽生

そうです。糖尿病は、血液中のブドウ糖濃度が異常に増加する病気です。糖尿病が動脈硬化、脳血管障害等のリスクを高めることは数値のうえからも明らかになっています。同様に、糖尿病を発症するとアルツハイマー病の発症率が約2倍高まることが報告されています。

広場

2倍ですか!それはどういう原因でそうなるのでしょうか?

羽生

食事をすると血糖値が上がりますが、それを下げるためにインスリンというホルモンがたくさんでます。必要でなくなったインスリンはインスリン分解酵素の働きで分解されますが、一緒にβアミロイド(アルツハイマー病を引き起こす物質)の分解もしています。

しかし、糖尿病で血糖値が高い状態になっていると、βアミロイドの分解が阻害され、溜まっていきます。これがアルツハイマー病につながるのです。ですから最近ではアルツハイマー病を「脳の糖尿病」とも呼ぶようになりました。

広場

「脳の糖尿病」ですか。

羽生

それだけにとどまりません。糖尿病は、末梢神経の働きの低下、歩行困難など合併症を起こしやすい病気です。そうなると外出もしにくくなり、社会に出る機会が減りがちです。こうした悪循環から病変がそれほど進んでいない初期のうちから認知症の症状が出ます。このようなことから、「認知症も糖尿病の合併症の一つだ」ということが注目されているのです。

広場

先ほど羽生先生は、「『生活習慣病』も認知症の発症を促進する危険因子」であると話されましたが、糖尿病だけでなく他の「生活習慣病」も同様ということですね。

羽生

そうです。「生活習慣病」は、中高年期に予防したりコントロールしたりすることが重要であることが知られていますね。「生活習慣病」は、中高年に限らず老年期になっても、さらには認知症を発症してしまった後でも、病気の進行に影響します。

ですから、継続的に日常生活を管理していく必要があるわけです。また、「生活習慣病」の治療薬の中には、認知症の発症を抑制したり、進行を遅らせる効果が期待されるものもあります。

広場

では、高血圧の治療をしていたら、知らないうちに認知症の改善に役立っていた、などということも起こりうるわけですね。

羽生

はい。高齢期の認知症の人の特徴は、種々の疾患をあわせ持っていることです。私はこれを「合わせ技効果」と呼んでいます。

広場

病気の合わせ技...歳を重ねた分「技」が豊富になってくるのですね!

羽生

じつは、中高年と高齢者では同じアルツハイマー病でも、病気の複雑さが大きく違います。たとえば、40代や50代の中年期の認知症の場合は、典型的なアルツハイマー病や脳血管障害が原因であることが多いです。

しかし、70代、80代の高齢期の認知症の場合は、純粋なアルツハイマー病というより他の病気との合併や混合型が大半です。たとえβアミロイドが発症する状態にまでにいたらず、例えば60%、70%でも、脳梗塞の合併や、加齢と関係した脳神経障害などいくつかの要因が重なり認知症が発症しやすくなります。ですから、治療やケアについても個々のケースで異なった対応が求められるわけです。

広場

「生活習慣病」が認知症を引き起こすということは、いわゆる「メタボ」だと認知症になりやすいということですか?

羽生

一概には言えません。中年期に限れば、「メタボリックシンドローム」は認知症にも関連し、肥満の人は痩せている人よりも認知症になるリスクが高いといえます。ここで、「メタボリックシンドローム」について簡単に説明しますと、食べ過ぎと運動不足から内臓脂肪ができ、必要以上の内臓脂肪ができると代謝の異常が生じることがあります。肥満、高脂血症、高血糖症(糖尿病)、高血圧などは、それぞれが独立した別の病気というよりも、肥満とくに内臓脂肪型肥満が原因で起こり、密接な関係があることがわかってきました。

このように肥満によって、さまざまな病気が引き起こされやすくなった状態を「メタボリックシンドローム」というのです。
しかし、逆に75歳以上の高齢者にとっては「肥満」よりも「痩せ過ぎ」のほうが認知症になるリスクは高いのです。

広場

高齢者はやせすぎの方がリスクなのですか?!

羽生

これは、高齢になるに伴い、筋肉の量が減少していく現象(サルコペニア)が起こるからです。筋肉が減るので、転びやすくなる。転べば骨折しやすい。外出が億劫になり、生活範囲が狭くなる。サルコペニアはこのような悪循環で、高齢者の活動能力の低下の大きな原因になっています。

さらに老年医学会は高齢者の筋力や活動が低下している状態(虚弱)をフレイルと呼ぶことを提唱しました。フレイルには移動能力、筋力、バランス、運動処理能力、認知機能、栄養状態、持久力、日常生活の活動性、疲労感など広範な要素が含まれています。

広場

加齢が原因の痩せすぎでしたら、しかたないと受けとめることしかないのでしょうか。

羽生

いえ、サルコペニアもフレイルも運動と食事で改善できます。
私は、高齢期は若い人の1.2倍くらいの良質なタンパク質を摂るように勧めています。お茶漬けだけ、というような食生活はよくありません。
そんな簡素すぎる食事では、サルコペニアを予防できません。高齢者は少し肥満気味くらいでいいと考えています。

広場

何歳になっても改善できるというのは心強いお言葉です。

羽生

今や認知症は「コントロール可能」であり「予防可能」であり「修正可能」な病気だと言われています。
そして認知症患者のうち、生活習慣が関係しているのは半数以上と考えらえています。

広場

認知症になってしまった人も、中年期のうちに生活習慣を改めていたなら、ある程度の人は認知症にならないで済んでいた、ということですね!!

羽生

そうですね。

広場

では、認知症を予防するために心がけるべき生活習慣は何でしょう?

羽生

予防の基本は運動と食生活です。

広場

とくにお勧めの運動はありますか?

羽生

運動の種類は基本的にはなんでもいいと思います。ウォーキング、ジョギング、テニスなどご自分が楽しみながら「続けられる」ことが大事です。体のためだからといって嫌々やっている人は効果があまり出ません。

広場

運動は続けられるということが大事で、そのためには楽しみながらできるもの、ということですね。
では、食事で気をつけることを教えてください。

羽生

食事は、バランスよく、同じカロリーなら、おかずを多めにとったほうが良いでしょう。

広場

お酒やたばこについてはどうでしょうか?

羽生

喫煙は認知症リスク発症率を高めるというデータがあります。
一方で、適度な飲酒、1日1合程度は動脈予防、脂質の上昇を抑制する効果があると言われています。

アメリカ、イギリス、オランダなど国が生活習慣対策を10年20年続けた国は、認知症発症が25%減っているというデータがあります。
認知症は早期発見、早期治療が大切です。現在、中年の人は予防を開始する年齢です。まずは生活習慣を見直すところから始めてみてはいかがでしょう。

広場

先生、ということは「認知症はもはや『生活習慣病』である」といってもよい、ということですね。

羽生

そうです。「もはや認知症は『生活習慣病』である」といってもいいのです。

広場

ありがとうございました。

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