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介護未満の父に起きたこと

  • 著者名:ジェーン・スー
  • ISBN:978-4-10-611098-6
  • 出版社:(株)新潮社
  • 価格:900円(税抜き)
  • 発売日:2025年8月20日

 父親のもとを訪れると、きれい好きだった父が「汚部屋」一歩手前の部屋に住み、栄養が偏った食生活をしていることを目の当たりにします。しかも、ペットボトルの蓋が開けられないといった、思わぬ衰えも浮き彫りに・・・。
 本書は、著者の父が82歳から87歳までの約5年間にわたる出来事をたどっています。物語は、わけあって82歳の父が突然ひとり暮らしをすることになり、家事能力がほぼゼロの父の生活に「黄信号」が灯るところから始まります。

 「要介護」認定後の制度利用を解説する実用書は多いですが、本書は認定が下りる前の、長く、かつサポートが難しい「介護未満」の時期を深掘りしています。著者は「人は誰しもがいきなり『要介護』になるわけではない。その手前が意外と長く、険しい」と警鐘を鳴らしています。

 著者は、親の介護という情緒的になりがちな問題を「ビジネスプロジェクト」として捉える、きわめて論理的なアプローチを取っています。
 多くの介護体験記が「献身」や「犠牲」を語りがちなのに対し、著者は「同居はしない、仕事も辞めない」というスタンスを貫き、「自分の望む生き方を優先する」姿勢を示します。それが著者にとって持続可能なケアの形だからです。

 そのアプローチは独特です。例えば、父を「往年の海外一流アーティスト」、自分はその「招聘元(プロモーター)」と考え、わがままなスターが今日のステージ(生活)を無事に務められるよう、ビジネスライクに徹して支えようと考えます。この黒子に徹することが、親への過度な期待や感情的な衝突を回避する画期的な「心構え」として描かれています。
 また、遠距離介護の負担を軽減するため、スマートデバイスでの見守り、タクシーアプリによる遠隔配車と決済、配食サービスでの食事手配など、最新テクノロジーを「介護ツール」としてフル活用しています。
 さらに、感情論で疲弊するのを防ぐため、父の能力を「できること」「できないこと」「あやういこと」「頼みたいこと」で整理し、自分を軸に、誰が何を担当するかを明確にするビジネス手法を導入しています。

 著者は介護を「家族の棚卸し作業」であると述べています。これまでの親子関係が如実に表れる場だからこそ、正しさで相手を責めるのではなく、ビジネスライクな冷静さと、少しのユーモアを持って向き合うことを提案しています。親の尊厳を守りつつ、自分の人生も大切にする。いずれは自分自身も直面する「老い」と付き合っていくための知恵と勇気を与えてくれる一冊です。

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