入浴介護とスキンケア ~入浴時のアフターケアが老化を防ぐ~
「あっ、便だ!!!」、私は唖然とし、次の瞬間、思わず素手でつかみ取り洗面器に移していました。私の声も出ぬ衝撃をよそに、つるばあさんはとても気持ちが良いらしい。こうして私の在宅介護は始まったのです。
誰でもお風呂に入ってからだが温まると、筋肉も緩みがち。便意をもよおしても私たちなら肛門の筋肉を意図的に締めてガマンできますが、便意や尿意がわからなかったり、筋肉の力が弱いお年寄りは出やすいのです。幸い、便は硬めだったので崩れる前に捉えてうまく処理できたのですが、あわてないためにも入浴介護には小さなビニール袋を用意して「もしも・・・」に備えましょう。
つるばあさんの入浴は、暖かい昼間に家族の手を借りて行ないます。
ごく普通の家庭のお風呂場には、介護に便利なものは何もありません。
そこでまず、冷えた浴室はお風呂の蓋を取り、洗い場にお湯を流して温めておく。お風呂のいすは不安定で座れないので、冷たいタイルの上にお風呂マットを敷き、温かく、楽に過ごせる工夫をします。
浴室周辺の戸を閉めて、着ているものを脱がせ、家族と二人でかかえて浴室へ!湯気の立つお風呂で、これからが二人だけのバスタイム。タオルに石鹸をつけて渡すと、つるばあさんは慣れた手つきで洗いはじめます。白内障で目もよく見えない、決して充分には洗えないけど「自分で洗う」この行為が大事なのです。
私は背中から洗いはじめます。まず注意したいのが石鹸。しわしわでカサついたお年寄りのお肌に、ふつうの石鹸では洗浄力が強すぎます。刺激の低い石鹸やベビー用などを使い、量も多くつけず、少しだけ使いましょう。
一番風呂もお肌に悪いことをご存知ですか?お肌の脂分を落としすぎますし、湯温が高いほど刺激が強いので気をつけましょう。乾燥しやすい季節にシャワーだけだとカサつきやすいのはこんなことも影響しています。
お年寄りには保湿効果のある入浴剤がおすすめ。買う時に気をつけたいのは完全に溶けるものを選ぶこと。沈殿して残るような入浴剤は危険です。お年寄りが浴漕内で滑る事故は多く、転倒や溺水につながりやすいのです。
お風呂から上がったらタオルでしっかり水分を拭き取ります。特に背中は水分が残りがちで、濡れているとそこから体の熱が外へ奪われて体調を崩すきっかけになりやすいので気をつけましょう。
きちんと拭いた後は、安いものでいいからボディローションで保湿。乾燥しているこの季節に多いお年寄りの皮膚の病気は「老人性皮膚掻痒症」。お年寄りが、他に原因がないのに背中や腰などをかきむしるのはこのためです。原因はドライスキン、水分・脂分の不足です。からだが温まり、血流が良くなるとかゆみが増し、時には不眠の原因にもなりかねません。かきむしって悪化させたり、薬をつける前に、お肌の状態と季節に合わせた日頃の小まめなスキンケアが予防につながるのです。
そうそう、お風呂上りは温かいお茶などで水分補給もお忘れなく!
「今回のひとこと」
人にはわからない身体の痒みはつらいもの、こまめなスキンケアで防いであげよう!
【執筆者プロフィール】
小森 由美子/こもり ゆみこ
サクラ・コミュニケーションズ/看護師、養護教諭、医療政策学修士
京都府出身。PL学園衛生看護専門学校、熊本大学養護教諭特別別科修了、東京医科歯科大学大学院修士課程修了
大学病院で勤務していたが介護のために退職。認知症でほぼ寝たきりの祖母を、失敗を重ねながら家族と介護。その後10数年、介護や保健教育に携わり、現在は認知症をテーマに人材育成や地域支援に携わる。
主な著書
「家族とケア関係者でつづるリレー式介護日誌」(単著/法研)
「わかりやすい介護技術」(共著/ミネルヴァ書房)
「見てよくわかるリハビリテーション介護技術」(共著/一ツ橋出版)
「福祉重要用語300の基礎知識」(共著/明治図書)
介護よもやま話
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