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認知症と暮らす ~ふたりで引いた、介護のスタートライン~

 昼夜逆転!昼間寝ているから夜起きてしまう、つるばあさんは認知症もあり、周りが暗いと余計に不安になり「お~い、お~い」と大声で呼ぶのです。私は他の家族が眠れるようにと祖母の部屋で寝始めました。
 すると、以前にも増して尿の回数は増え、私の睡眠時間は減っていったのです。数日後、このままでは私が先につぶれてしまう・・・、と思い切って別の部屋で寝たのです。
 なんと、その日は妙に静かに寝てくれたのでした。祖母が落ち着かなかった原因のひとつが私であったことに気づいたのは、数年後でした。祖母はいつも、一人で部屋に寝ていましたが、その「いつもの環境」に、私が入ったことが本人を刺激し、興奮させてしまったのです。

 認知症のあるなしに関わらず、年齢とともに何事にも適応する力が低下してゆきます。
 たとえば、お年寄りが入院すると、急激に環境が変わり、一時的に「仮性認知症」におちいる方は案外多いのです。症状は、それまで何ともなかったのに急に変なことを言いはじめたり、ぼんやりしているなどです。家族は驚いて、「認知症が始まった・・・」と誤解されることも多いのですが、責めたり、あきらめたり、認知症だと決めて対応するのではなく、いつもと同じように接したり、お年寄りの状況を受け入れたり、見守ることが回復につながります。

 さて、つるばあさんを起こし、着替える服を選んでもらうことにしました。認知症のあるつるばあさんの選択は、意外にもはっきりしていました。それはその服が新しいか古いかで決めるのです。新しい服を出すと、「これはまた誰かに呼んでもらった時に着るから・・・」というのです。私は仰天しました。86歳、認知症あり、一人で歩けない・・・でも「お出かけ用は残しておきたい!」この明確な意思があること事態が信じられなかったのです。
 これ以後、新しい服は一旦袋から出し、たたみ直してできるだけ着てもらうよう気をつけました。

 着替えたら次は洗面。洗面所へ即席の手すりにつかまり、顔を洗う。部屋へ運んでいた食事は居間でとり、ラジオ、テレビのボリュームを上げて音で刺激する。天気が良ければ庭へ連れ出し草取り。これだけは慣れ親しんだことなのか、何時間でも続けている。
 ただし、自分で移動できないので、つるばあさんのいる周囲は芝生を全部抜き、気づいたときには土が見えていた。時々、移動させなければならなかったのです。

 まあ、おかげですっかり、夜は疲れてぐっすり寝るようになり、やっと私は介護のスタートラインに立った気がしたのです。

「今回のひとこと」
昼夜逆転、なぜ起こる?・・・薬に頼らず起こすことから始めよう!

【執筆者プロフィール】

小森 由美子/こもり ゆみこ

サクラ・コミュニケーションズ/看護師、養護教諭、医療政策学修士
京都府出身。PL学園衛生看護専門学校、熊本大学養護教諭特別別科修了、東京医科歯科大学大学院修士課程修了

大学病院で勤務していたが介護のために退職。認知症でほぼ寝たきりの祖母を、失敗を重ねながら家族と介護。その後10数年、介護や保健教育に携わり、現在は認知症をテーマに人材育成や地域支援に携わる。

主な著書
「家族とケア関係者でつづるリレー式介護日誌」(単著/法研)
「わかりやすい介護技術」(共著/ミネルヴァ書房)
「見てよくわかるリハビリテーション介護技術」(共著/一ツ橋出版)
「福祉重要用語300の基礎知識」(共著/明治図書)

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