自分を追い詰めないで
働きながら介護をしている方々が集まる座談会で、ある女性に出会いました。優秀なシステムエンジニアで、会話をしていると聡明さと意思の強さが伝わってきます。彼女は、独身で認知症の75歳の母親とふたり暮らし。誰にも相談せずひとりで母親の介護をしながら、仕事も手を抜かない日々を過ごしていました。
早朝からお腹がすいたと泣く母親に朝食を食べさせ、母親の昼食の準備をして、1日1,000円だけ渡し、注意事項を何度も耳元で伝えて出社。仕事を終えて疲れて帰宅しても夕飯、入浴、就寝の介助が続きます。日中、探し物をした母親がタンスからすべての洋服を外に出して、部屋が足の踏み場もなく散らかった状況だったり、失禁したことを隠したい母親が、汚物をタンスの奥にしまっていたりと、日々事件は起こると彼女は疲れた様子で話してくれました。
娘以外には心を許さない母親を気遣い介護支援は一切受けず、職場でも弱音を見せたくないと、上司や同僚に一切相談しない彼女は、見るからに心身の疲労が極限に達し、何かのきっかけで、母親とともに共倒れになりそうな状況です。会社を辞めたら、少しは楽になるかもと介護離職を真剣に考えているとのことでした。
- 「娘がいるのに、他人に介護をお願いするのは申し訳ない気がする」
- 「親が他人を受け入れないから、私しか介護ができない」
- 「介護のことはプライベートなことなので、会社に相談しても仕方がない」
こんな風に、介護をひとりで抱えて、自分を追いつめていませんか?ぜひ、すべてをひとりで背負わないで、困っていることを周囲に相談してください。周囲にお願いできることは助けてもらい、親の笑顔のために、娘や息子にしかできないことをしてあげる、そんな風に、「できることとできないことを区別する意識」が大切かもしれません。
【執筆者プロフィール】
津坂 直子/つさか なおこ
社会保険労務士、年金アドバイザー、AFP/2級ファイナンシャル・プランニング技能士、上智大学法学部法律学科卒