1.ハラスメントの実態と発生要因(1/3)
ポイント1
利用者等からのハラスメントの
深刻な実態
2019年4月、厚生労働省老健局から全国自治体に向けて「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」が示されました。あらゆる業界において、職場におけるハラスメント対策は大きな課題となっています。
そのなかでも、介護現場特有のハラスメントとして社会問題化しつつあるのが、「利用者や家族等から介護従事者に向けられるハラスメント」です。
この場合のハラスメントは、サービス提供の場における利用者・家族等からの以下のような行為を指します。
- ①身体的な力を使って危害を及ぼす行為
(身体的暴力) - ②個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりする行為
(精神的暴力) - ③意に沿わない性的誘いかけ、好意的態度の要求等、性的な嫌がらせ行為
(セクシャルハラスメント)
などとなります。
深刻なのは、こうした行為が発生しても、その実態がなかなか表に出にくいことです。
介護サービス現場では、利用者や家族は「支援を要する守られるべき立場」という認識が根強くあります。それゆえに、従事者が被害を受けても「少々のことなら」と我慢してしまい、仮に上司や管理者に相談しても、やはり「我慢すべき」と諭されるだけというケースも少なくありません。その結果、水面下で事態がエスカレートしてしまいがちです。
こうしたケース発生は、他者の目が入りにくい訪問系サービスの方が顕著と思われがちです。ところが、先のマニュアル内で示された調査結果では、特に利用者本人からのハラスメント経験が施設・居住系サービスも高い割合を示しています。サービスの種類に関係なく、対策が要される問題というわけです。
利用者・家族等からのハラスメント
にはどのようなケースがあるか
身体的な力を使って危害を及ぼす行為
(従事者側の回避で危害を免れたケース含む)
- 物を投げつける
- 蹴りつける
- 手を払いのける
- たたきつける
- ひっかく、つねる
- 首をしめる
- 唾を吐く
- 服を引きちぎる
など
個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりする行為
- 怒鳴る
- 威圧的態度で文句を言い続ける
- 理不尽なサービスを要求する
(介護保険外など) - こちらに落ち度がないにもかかわらず謝罪を求める
など
意に沿わない性的誘いかけ、好意的態度の要求等、性的な嫌がらせ行為
- 必要もなく抱きしめ、身体をさわる
- 女性のヌード写真を見せる
- 卑猥な言動を繰り返す
- サービス中の従事者の衣服内に手を入れる
など
(平成30年度厚生労働省老人保健健康増進等事業「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書」内の「ハラスメントの定義」を一部改編)
調査時(2018年)の過去1年間で
ハラスメントを受けたことがある
職員の割合(※)
(サービス別の上位5位までを掲載)

※「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」p5