免許返納後の身体的・心理的不調が増えている
運転免許を返納した高齢者に対する身体的・心理的ケアは、初めから免許を持っていない高齢者に対するケアとそれほど変わるものではありません。運転免許保有者でなくなると、運転経歴証明書の発行を最後に警察の関与がなくなり、ケアの主体は自治体となるからです。
ただし、免許を返納して車の運転をやめると、外出する機会が減って身体的に病気がちになったり、社会的なつながりが減少して心理的な張り合いがなくなったりしがちになります。運転をやめると今までより買い物や通院が不自由になったり、家族・友人宅の訪問や趣味・サークルの活動が続けられなくなったりするからです。
免許を返納した高齢者の中には自身の心身機能低下や病気があって、それが運転への不安となってやめる人が多くいるので、返納後に病気になりやすいのはある意味で当然かもしれません。
それでも医学的な追跡調査によれば、運転中止者は運転継続者より、数倍も要介護状態になりやすい、認知症になる率は1.6倍高い、心身機能低下は3倍多いといった結果が出ています。
外国の研究でも、運転中止により施設入所や死亡が1.7倍多いといった身体的な不調のほかに、抑うつ症が2倍に増えるといった心理的な不調の増加を示す報告があります。
【執筆者プロフィール】
松浦 常夫/まつうら つねお
警察庁科学警察研究所 交通安全研究室主任研究官などを経て、現在、実践女子大学教授。交通心理学の専門家として、交通事故などの研究に携わる。
「高齢ドライバーの安全心理学」など著書多数。