事例から考える"8050問題"と高齢者介護(その2)
今回は、親自身に介護が必要となり、介護や医療の関係者が関わっている事例をご紹介します。
A子さんは夫と30年前に離婚し、息子B男さん(55歳)と一緒に暮らしています。A子さんには軽度の認知症があり、家事等が難しく、家事等の支援のための訪問介護が週3回入っています。B男さんは精神障害者保健福祉手帳を持っており訪問看護が入っています。
A子さんは、少し前の出来事を忘れコミュニケーションにも支障が出てきました。そのため、B男さんと言い争うことが増え、ヘルパーの訪問時にB男さんがA子さんに暴言や暴力をふるうような行為がたびたびみられるようになりました。心配したヘルパーから報告を受けた訪問介護事業所のサービス提供責任者がケアマネジャーに相談をしました。
今回の事例はすでにA子さんB男さん親子にサービスが入っています。A子さんとB男さんの言い争いや、B男さんのA子さんに対する暴言や暴力行為がみられたことから、高齢者虐待にもつながるような事例だと考えられます。
訪問系のサービスが提供されている場合、その関係者はその人の生活空間に入ります。生活空間に入ることは、居住環境だけでなく、その親子が生きてきた歴史、親子の関係性等を感じることができる貴重な場になると思われます。
親子間では、それぞれ心身等の影響を受けながら生活しています。ほとんど会話がない親子の場合でも相手に対して何らかの心情が生じています。介護や医療の関係者はその生活空間に入るとさまざまなことに早めに気付くことが可能になると思われます。
親側のA子さんを担当しているのはケアマネジャーやヘルパーであり、子ども側のB男さんを担当しているのは訪問看護師です。ケアマネジャーやヘルパーからみると、暴言や暴力をふるうB男さんから利用者A子さんを守らないといけないという状況があり、訪問看護師からみるとA子さんの認知症発症によって利用者B男さんの精神状態が不安定になっているという状況があります。
双方の視点の違いをすり合わせしないと、専門家同士の温度差やすれ違いが起こってしまいます。両関係者には連携を通して、家族全体に着目した支援アプローチが求められます。
【執筆者プロフィール】
綾部 貴子/あやべ たかこ
桜花女子大学准教授 博士(学術)、社会福祉士、介護福祉士。
専門は、高齢者福祉、ケアマネジメント、介護福祉、地域福祉、障害者福祉等。
8050問題
事例から考える"8050問題"と高齢者介護(その2)