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闘病でなく共病

一般公開日:2023.9.17

 前回、できないところは受け入れてできることを伸ばすという発想をお伝えしたが、病気についても同じスタンスが大切だと私は信じている。

 私は当時日本に3つしかなかった高齢者専門の総合病院、浴風会病院に足かけ10年近く勤務したのだが、その病院では年間100人くらいの方を死後解剖して、本当はどこに病変があったのかをみる検討会に参加していた。

 結果的にわかったことは、85歳を過ぎて脳にアルツハイマー型の変性がない人はひとりもいないし、身体中のどこにもがんがない人はいないということだ。

 しかし、85歳以上になっても知能テストで正常レベルの人は半数以上いるし、それどころか若い人より頭のいい人もいる。がんが死因の人は3分の1で、残りの3分の2の人たちは死ぬまでがんに気づかれずに、ほかの病気で亡くなっていた。

 病気があっても十分健康に高齢期を過ごせるものだと痛感した。老いを受け入れることは病気を受け入れることでもある。

 例えば高齢者のがんの場合、それが受け入れられず、無理に取り去ろうとしても、逆に体力が落ちてしまい、日常生活レベルが落ちることが多い。がんというのは人が考えるほど痛く苦しい病気ではない。前述のようにがんに気づかず亡くなる人は3分の2はいるし、手遅れになるまで気づかないのもそのためだ。

 ついでにいうと解剖してみると80歳を過ぎて動脈硬化のない人もいなかった。動脈の壁が厚くなるので、血圧や血糖値がやや高めでないと脳に酸素やブドウ糖がいきわたらない。血圧や血糖値を下げる薬を飲むとだるくなるのはそのためだ。

 多少検査データが異常でも、それがひどい値でなければ、それを無理に下げようとするより、自分の主観的な体調を重視して、病とともに生きる共病をおすすめしたい。

【執筆者プロフィール】

和田 秀樹/わだ ひでき

東京大学医学部卒業。専門は老年精神医学、精神分析学、集団精神療法学。
現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。
高齢者専門の精神科医として、30年以上高齢者医療の現場に携わる。
著書『80歳の壁』などベストセラー多数。

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