私は施設には入らない!入居予定者の直前拒否
老人ホーム紹介会社の相談員をしているとさまざまなケースに出会います。
あるご家族から、90歳になる同居しているお母さまの老人ホーム入居に関するご相談がありました。お母さまはお身体に特に悪いところはなく、90歳にしてはお元気な方だそうですが、認知症とは言わないまでも物忘れが多々あり、お仕事の関係で家を空けることが多いご家族としては心配なので、老人ホームを考えたいとの事でした。
ご家族からご予算や希望条件等をヒアリングし、数施設見学を行なう事となりました。私はご家族に「もしお母さまが良ければ、お母さまも一緒に見学したらどうでしょうか」と提案しましたが、「体力的に心配だから」と断られてしまいました。
経験上、ご本人が一緒に施設を見学し、施設を気に入ることが出来ればスムーズに入居が進みます。何より老人ホームとはいえお母さまのお住まいになりますので、一緒に見学したほうが良かったのですが、断られてしまえば仕方ありません。ご家族のみで見学を行ないました。
見学時は、当然、施設のスタッフからお母さまのお身体の状況や介護度、病気の有無などはもちろんのこと、性格やどういった暮らしをしたいかなども訊かれます。そのときよく訊かれるのが「老人ホームに入居することを本人はどう思っているか」です。今回のケースでは、ご家族の答えは「納得している」でした。施設のスタッフも私もその答えに一安心し、またご家族にも見学した施設を気に入ってもらえましたので、入居契約に進むこととなりました。
契約日当日、お母さまは施設見学にいらっしゃっていないので、はじめての老人ホーム訪問になります。私もお母さまにお会いするのは初めてでしたが、ご様子が明らかにおかしいのが分かりました。嫌な予感がし、再度ご家族にお母さまが納得されているのか確認しました。ご家族の答えは「納得していない、今日初めて施設に入居することを伝えた」「ホントの事を言うと入居できないと思った」との事でした。
施設のスタッフがお母さまに様子を伺おうとしても、出てくる答えは「私は施設には入らない」「早く家に帰らせてほしい」の一点張りです。もうこうなっては入居どころの話ではなくなります。いったん入居契約はキャンセルし、ご家族にはお帰りいただくことになりました。
お母さまがお帰りになる際つぶやいた言葉を今でも覚えています。「私はこの家族に一生迷惑をかけて生きていくんだ」。そのご家族とはその後連絡が取れなくなってしまい、どうされたかは知る由もありません。
推測になってしまいますが、このご家族はお母さまとの関係性に問題があり、それを解決するための老人ホーム入居だったのだと思います。
このように当初は施設に入ることに納得されていない高齢者の方も少なくありません。ほかのケースでは「施設入居に対し拒否感をお持ちである」とお知らせいただいたことで、施設のスタッフと協力して対応させていただき、入居につながったこともありました。
老人ホームへの入居はいろいろな事情が絡みます。少しでもスムーズに進めるためにも老人ホーム紹介会社のスタッフには何でもご相談いただくと良いと思います。
【執筆者プロフィール】
脇 俊介/わき しゅんすけ
株式会社プランドゥ代表取締役。
社長業と兼任し、入居相談員としても相談者をサポート。
介護職員初任者研修の資格を有し、介護や施設選びのポイントについてアドバイスを行ない、近年は老人ホームに関する講演活動も精力的に取り組んでいる。