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親も子も転居せずに介護は可能

一般公開日:2024.9.22

 遠方で暮らす親に支援や介護が始まると、子にはさまざまな悩みが生じるものです。多くの場合、最初に考え込むのは「地図上の距離」です。

 「このまま離れて暮らして、介護をできるの?」
 「行ったり来たりすることになるのに、仕事を続けられる?」

 結論から言えば、親も子も住み慣れた家で暮らしながら介護を行なうことは可能です。もちろん、親も子も、ほかの家族も呼び寄せやUターンを望むなら選択肢になるのですが、全員が賛成することは稀です。
 反対意見があるのに強行すると、後々問題が出ることが多いので慎重に進めましょう。もちろん仕事を辞める必要もありません。

 東京で暮らす田中さん(50代男性)も、大分の実家で暮らすひとり暮らしの母親(80代)に介護が必要になり悩んでいました。田中さんは妻と大学生の長女と3人暮らしです。

 実家の近所に住む母親の弟(叔父)から「長男だろ。母親の面倒をしっかりみろ」とたびたび電話がかかってきたそうです。
 「叔父がうるさく言ってくるので、母を東京に連れてこようと考えました。しかし、妻もフルタイムで働いているし、同居に賛成してくれません。なら、東京の施設とも思ったのですが、母は『東京になど行かない』とかたくなで困ってしまいました」と田中さんはおっしゃっていました。

 筆者が田中さんと会ったとき、「僕が単身、実家に行って母を世話するしかない」とまで思い詰めていました。けれども、実家の近くに勤務先の支店があるわけではなく、テレワークができる職種でもないと言います。実家にUターンするということは離職を意味します。

 田中さんはやりがいを感じている仕事を辞め、しかも収入が途絶えることになります。これからの長い人生をどう生きていくのでしょう。いま辞めれば、退職金や将来受給する年金額にも影響します。日本は長寿国になっており、母親の介護期間も5年、10年と長期化するかもしれません。

 結局、田中さんは母親本人、叔父ともじっくり話し合い、どちらも転居をしないで"遠距離介護"を行なうことを決断され、公的介護保険や自治体のサービスを使って、母親が安心して暮らせる環境を構築しました。
 「想像していた以上にサービスは充実していました。月に1回、帰省しています。最初は『サービスなんか使わない』と言っていた母も、デイサービスにも慣れて穏やかに暮らしています」と田中さんはおっしゃっていました。

 親も子もそれぞれの生活を大切にしてサービスをトコトン活用する遠距離介護。その秘訣は次回以降紹介します。

【執筆者プロフィール】

太田 差惠子/おおた さえこ

介護・暮らしジャーナリスト、NPO法人パオッコ理事長。
1994年頃より高齢化社会を見すえながらの取材、執筆を開始。
96年、親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げる。
2010年立教大学大学院にて、介護・社会保障・ワークライフバランスなどを体系立てて学ぶ。著書多数。

関連著書紹介
故郷の親が老いたとき 46の遠距離介護ストーリー
70歳すぎた親をささえる72の方法
老親介護とお金 ビジネスマンの介護心得

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