介護や医療のプロを味方に、ブレない!
遠距離介護を行なう子世代の方から「どれくらいの頻度で帰省するべき?」と問われることがあります。大勢の子世代を見てきましたが、親の心身の状況や子の仕事や家族の状況、その他それぞれ事情が異なるので、正解はないと思います。
東京で暮らす中野さん(50代男性)は、北海道で暮らす母親の遠距離介護をはじめて1年になります。
「母が元気だったころは、盆と正月しか帰省していませんでした。今は、1ヵ月半に1回くらい帰っています。ほんとは月に1回は帰省したいのですが、忙しくて気付けば40日ほど経っているんです」と中野さんは話します。
中野さんの母親は認知症と診断されています。幸い薬がうまく合い、症状は安定しています。介護保険のホームヘルプサービスとデイサービスを利用し、比較的穏やかに生活しているそうです。実家のお隣さんが週に1~2回、煮物などを持って様子をのぞいてくださるので「助かっています」と中野さん。
ただ、「もっと帰ってこい。親を放っておくな」とお隣さんから叱られるそうです。「ありがたい反面、『うるさいな』と思うこともあります。帰省するときは手土産を持って日頃のお礼を言いに行きます。
母は北海道を出たことがないので、認知症が進んだら、実家の近所にある施設に入れようと思っています。お隣さんは『冷たい』と言うかもしれませんが、私には私の生活もあるので仕方ないです」と中野さんはおっしゃいます。
中野さんはケアマネジャーさんとのコミュニケーションも大切にしています。ケアマネジャーさんに帰省の予定を連絡しておくと、そのタイミングで実家に来てくださいます。
ケアマネジャーさんは将来的な入居候補の施設も調べてくれていたので、中野さんは母親を連れて施設見学に行くことができました。
また、母親が通院している「物忘れ外来」にも同行してくださいました。院長から認知症の進行状況を聞き、施設への入居のタイミングをケアマネジャーさんに相談しています。
遠距離介護をスタートすると、親戚や近所、知人などから色んな声が聞こえてくることがあります。もちろん、善意の言葉掛けに誠実に対応することは必要でしょう。けれども、引きずられてブレないことも重要なのではないでしょうか。
100組の親子がいれば100通りの介護があります。遠距離介護は長期戦となるかもしれません。介護や医療のプロの意見を聞きながら、自分たちにとってよりよい方法は何かとしっかり考えることが長続きのコツだと思います。
【執筆者プロフィール】
太田 差惠子/おおた さえこ
介護・暮らしジャーナリスト、NPO法人パオッコ理事長。
1994年頃より高齢化社会を見すえながらの取材、執筆を開始。
96年、親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げる。
2010年立教大学大学院にて、介護・社会保障・ワークライフバランスなどを体系立てて学ぶ。著書多数。
関連著書紹介
故郷の親が老いたとき 46の遠距離介護ストーリー
70歳すぎた親をささえる72の方法
老親介護とお金 ビジネスマンの介護心得