介護にかかる費用は親本人のお金で
遠距離介護は同居・近居介護に比べてお金がかかります。
親のところまで新幹線や飛行機に乗って行ったり来たりする人も珍しくありません。
神奈川県内で暮らす上田さん(40代女性)は夫婦と高校生の長女との3人家族で、長女が中学生になったころから週に5日、パート勤務をしています。夫は会社員です。
上田さんの実家は愛媛で、70代の母親がひとりで暮らしています。
昨年、母親が足を骨折して入院した時、上田さんはたびたび愛媛に通いました。
「飛行機で往復すると結構な費用がかかります。職場の理解があってパートを続けていますが、休むとお金にならないので、正直キツイ」とおっしゃっていました。また、長女が大学進学を控えており、まだまだ教育費もかかります。
上田さんの母親は、杖をつきゆっくり歩行できるまでに快復しました。
「最近は安定しているので、帰省のペースを落としています。もう3ヵ月以上帰っていません。何かことが起きると頻繁に帰省しなければならないので、安定しているときはね」と上田さんは話します。
飛行機は早めに予約するとリーズナブルな運賃設定がありますが、緊急な帰省になると、利用できるのは往復割引くらいです。「1回の帰省でパート代が吹っ飛んでしまいます。急だと、1往復で6万円以上かかるんです」と上田さんはため息をつきます。
ご自分の交通費ばかりではなく、「遠距離で同居してあげられないから」と親の介護サービスの費用、なかには施設入居の費用まで負担するお子さんもいます。
しかし、介護が長期化すると「経済的に限界だ」と苦しむケースが少なくありません。
筆者は、介護は親の自立した生活を応援するための行為なのだから、親の介護にかかる費用は親本人のお金をあてればよいと考えています。なるべく早い段階で家族会議を開いて、介護にかかる費用をどうするか話し合うことをおすすめします。親に経済的なゆとりがあるなら通いにかかる交通費も介護の経費と捉えて親に出してもらえば良いでしょう。
実際、親が負担しているという声を結構聞きます。
仕事も予算ありきのように介護も予算ありきです。親の経済状況をある程度把握し、仮に親が100歳まで生きると考え、必要な費用を具体的にプランしましょう。介護のお金はかけようと思えばどこまでもかけられますが、逆に抑えることもできます。親の年金収入などが少なければ、さまざまな負担軽減制度も用意されているので確認をしておきましょう。
この先、子は親よりも長く生きなければなりません。自身のマネープランも考え、ムリをしないことが大切です。自分が笑顔でなければ、親を笑顔にすることなどできませんから。
【執筆者プロフィール】
太田 差惠子/おおた さえこ
介護・暮らしジャーナリスト、NPO法人パオッコ理事長。
1994年頃より高齢化社会を見すえながらの取材、執筆を開始。
96年、親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げる。
2010年立教大学大学院にて、介護・社会保障・ワークライフバランスなどを体系立てて学ぶ。著書多数。
関連著書紹介
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70歳すぎた親をささえる72の方法
老親介護とお金 ビジネスマンの介護心得