介護にビジネス視点をプラスして冷静に
進学や就職、結婚などを機に親元を離れた子世代。いつの間にか、遠くで暮らす親は年老いて支援や介護が必要に...。けれども、子には子の生活があり、"同居して介護"という方法を選択することは難しいケースが多いでしょう。家族でサポートすることが厳しいなら、介護サービスを利用してみましょう。
ところが、親から利用拒否されることがあります。
横浜市内で暮らす小林さん(50代女性)の実家は東北地方で80代の両親がふたりで暮らしておられます。母親が父親を介護しており、老老介護状態です。母親まで具合が悪くならないかと、共倒れを心配しています。
「父は要介護1ですが、デイサービスに行くのを嫌がるのです。一方母は、『他人が家に来ると疲れる』とホームヘルプサービスの利用を拒否しており、結局サービスは入っていません」と小林さんはため息をつきます。
実は、小林さんの両親のようにサービスを拒む親は結構います。人の世話になるのは申し訳ないと考えたり、プライドの問題だったりします。
また、親の認知症を疑って専門医を受診させようとしても、「どこも悪くない」と言われてしまうケースも...。子としてはいら立ちから、「いまは、サービスを利用する時代なんだ!」と声を荒げてしまいがちです。けれども、親子喧嘩をしても気持ちは消耗するばかり...。
そんなときは、介護に"ビジネス視点"をプラスしてみませんか。
例えば、仕事で取引業者と意見が平行線になっても、喧嘩はせず、アプローチ方法を練ることはありませんか。親のことも、ちょっと厄介なクライアントと思って冷静に対峙すると案外うまくいくものです。子どもが言っても耳を貸さない親も、"先生"の言うことは聞く傾向があります。
そこで、こっそり親の主治医に相談し、医師からサービスの利用を勧めてもらって導入に成功した事例を数多く聞いています。
また、ホームヘルパーに来てもらうことを拒否しても、看護師なら受け入れるケースがあります。そこで、まず訪問看護サービスを利用し、慣れてきたら看護師からほかのサービス利用を勧めてもらうのも一案です。
一方、認知症を疑うけれど精神科受診が困難な場合などには、"ウソも方便作戦"を試してみてはどうでしょう。「70歳以上は、全員認知症検査を受けることが国で決まった。今月末までは、無料だよ」などと言って、連れ出すことに成功した人もいます。
別居に限った話ではありませんが、介護サービスを利用しないと、すべて家族の肩にかかってきます。親の介護では、仕事で培ったコミュニケーションスキルを駆使して、冷静にしっかり向き合うことが効果的です。
【執筆者プロフィール】
太田 差惠子/おおた さえこ
介護・暮らしジャーナリスト、NPO法人パオッコ理事長。
1994年頃より高齢化社会を見すえながらの取材、執筆を開始。
96年、親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げる。
2010年立教大学大学院にて、介護・社会保障・ワークライフバランスなどを体系立てて学ぶ。著書多数。
関連著書紹介
故郷の親が老いたとき 46の遠距離介護ストーリー
70歳すぎた親をささえる72の方法
老親介護とお金 ビジネスマンの介護心得