感情失禁とは
高齢者のケアをやっている場合に問題になる症状に感情失禁というものがある。失禁というとおもらしのようなイメージなのかもしれないが、一般的には、感情がうまくコントロールできない状態のことを指す。うまくコントロールできないというのはいくつかのパターンがある。
一つは、怒りだしたら止まらないとか、泣きだしたら止まらないというように、一度湧き出した感情がコントロールできず、周囲に違和感や軋轢を生じるような状態だ。
店員の態度などに腹を立てるところまでは理解できても、その怒りがどんどんエスカレートしていつまでも怒鳴り続けるなら、暴走老人とかカスタマーハラスメントとか言われかねないし、周囲の人間のほうが謝らないといけなくなることもあるだろう。
そのほか、普通なら怒らないようなシチュエーションで怒りだしたり、泣かないようなシチュエーションで号泣したりというような些細な刺激で過剰に反応する場合も感情失禁という。さらにお葬式の場で笑い出すような、その場にそぐわない感情が出る場合もある。
これらは、脳のなかで、感情のコントロールを司る前頭葉という場所が、老化で委縮したり、脳出血や脳腫瘍で障害されたりすると起こると考えられている。また脳血管障害の場所によって、感情のスイッチの入り方や、感情表出がおかしくなって起こることがあるとされる。
いずれにせよ、脳が老化したり、何らかの障害が起きたりすることで、感情の機能がおかしくなって生じるものだ。人間というものは、言葉以上に、相手の感情に反応するものだ。怒りをぶつけられたら、多くの人は自分も怒ってしまう。
そういう意味で、それが脳の障害などによって起こるものであったにしても、人間関係を悪くするし、歳をとってから嫌われるということになりかねない。
また感情失禁の一つのパターンとして、落ち込みがどんどんひどくなるとか、不安感情がどんどん強まるということもある。これはうつ病につながったり、もの盗られ妄想のような病的な不安にもつながったりする。
次回からは、この感情失禁がなぜ起こるのか、そしてどのような対処が可能なのかを考えていきたい。
【執筆者プロフィール】
和田 秀樹/わだ ひでき
東京大学医学部卒業。専門は老年精神医学、精神分析学、集団精神療法学。
現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。
高齢者専門の精神科医として、30年以上高齢者医療の現場に携わる。
著書『80歳の壁』などベストセラー多数。