前頭葉の老化を防ぐ
前回お話しした前頭葉の老化はある意味避けられないことだが、ある程度予防は可能だと私は考えている。
人間の老化というのは、使わないと進むし、ちゃんと使っているとそんなに進まない。足腰を普段使っていると、かなり高齢になっても歩けるが、外にほとんど出ないような生活をしていると高齢者の足腰はすぐ衰える。だとすると前頭葉も使っていると衰えないはずだ。
前頭葉は意欲や感情にもかかわるが、普段のルーティンでない場面や想定外のことが起こった際に対応する脳だと考えられている。
逆に前頭葉が老化してくると、それを使わないで済むような生活を好むようになる。
例えば行きつけの店にしか行かなくなる。ふだん慣れ親しみ、どんなメニューがあるのかもよくわかっていて、店の対応も大体読めるのなら、前頭葉を働かせなくて済む。衰えた前頭葉に負担をかけない生活パターンを好むようになるということだ。
逆に言うと前頭葉の衰えを避けたいのなら、あえて意外性や想定外を求めることが必要になる。
ふだん行かないような店を試してみるとか、使ったことのない食材にチャレンジするとか、読んだことのない著者の本を読んでみるとか予想がつかないことをやってみるのだ。
前頭葉の老化というのは、意欲の老化につながるので、足腰や一般的な知能の老化にもつながりやすい。使っていないと衰えることがわかっていても意欲が落ちると使うことが億劫になるのだ。
そういう意味で、感情のコントロールを維持するだけでなく、意欲を維持するために前頭葉を鍛えることをおすすめしたい。
あと、意外にやっかいなのは不安感情だ。歳をとって、何かが不安になると気になって不安がエスカレートするなど、一度落ち込むと、どんどん落ち込んでしまうことがある。
もちろん、これは前頭葉の老化も関与しているのだが、セロトニンという幸せホルモンと言われる脳内物質が歳を取ると減ることにも関与している。
これを増やすには、十分なタンパク質を摂ることと光を浴びること、そして適度の運動が大切だ。
なるべく外に出歩き、肉を食べると元気で若々しくいられるというのは、脳科学からみると正しい考え方なのだ。
【執筆者プロフィール】
和田 秀樹/わだ ひでき
東京大学医学部卒業。専門は老年精神医学、精神分析学、集団精神療法学。
現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。
高齢者専門の精神科医として、30年以上高齢者医療の現場に携わる。
著書『80歳の壁』などベストセラー多数。