感情失禁の人への対応法
前回、感情失禁の予防について書いてみたが、介護をする人にしてみたら、目の前の介護を受ける人や身近にいる高齢者が感情失禁の傾向があるほうが深刻な問題かもしれない。
一つ言っておきたいのは、これまでも述べてきたように、脳の老化が原因なので、治すということは困難だということだ。
一方で、通常、この手の感情失禁は、四六時中怒り狂っていたり、泣いてばかりしているわけではない。一度怒りだしたり、泣き出したりしたら、それが止まらなくなりエスカレートしてしまうということだ。
ならば、怒らせたり、悲しませたりしないように気を付けることがとても肝要だ。
私は高齢者専門の精神科医で、かなりの数の認知症の患者さんを診てきたが、認知症介護の最重要の原則は、機嫌のいい時にはトラブルが少ないということだ。異常行動や被害妄想的な発言というのは、機嫌が悪い時に起こるもので、ふだんは認知症の患者さんはニコニコしていることが多い。
だから、相手が認知症でも、その発言をあまり否定していると、かえって異常言動を誘発して、介護に手がかかるようになるという話を家族にすることが多い。認知症までいかない感情失禁のレベルでも、この原則は同じだろう。
高齢者を機嫌がよい状態に保つというのはいわゆる機嫌を取るというのとは少し違う。相手がどういう時に機嫌がいいかをよく観察して、それを上手に使うとよい。
例えば、甘いものを食べている時には機嫌がいいというのであれば、ときどき、甘いものを食べてもらってリラックスしてもらう。テレビのお笑い番組を見ていると機嫌がよいのなら思う存分見てもらうという風だ。
もう一つ、重要な視点は高齢者を立ててあげるということだ。もともと日本にはそういう文化があったが、核家族化とマスメディアの影響で、高齢者は立てられるどころか邪魔な存在になっている。
しかし、高齢者というのは、長い人生経験からプライドが高いことが多いため、相手にされないと腹を立てることが多い。さらに、前頭葉が委縮しているため、怒りだしたらそのコントロールが悪い人が多いものだ。
確かに普段生活をともにしている場合など、いつも立ててあげるというのはストレスフルかもしれないが、そのほうが介護が楽になる「先人の知恵」として高齢者を立てるというテクニックは身につけて損はないと信じる。
【執筆者プロフィール】
和田 秀樹/わだ ひでき
東京大学医学部卒業。専門は老年精神医学、精神分析学、集団精神療法学。
現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。
高齢者専門の精神科医として、30年以上高齢者医療の現場に携わる。
著書『80歳の壁』などベストセラー多数。