事例から考える老老介護・認認介護②具体的な対応策は?
今回は前回の事例の具体的な対応策をお話します。
経過を見ていくなかで、徐々にふたりの身体機能、精神機能の低下が見られ始めました。娘さんの同意をいただいていましたので、半ば強引に、介護保険サービスを入れることは簡単な状況ではありましたが、それではこれまでお互いに支えあってきた一郎さん、ヨシさんの気持ちや尊厳を踏みにじることになりかねません。
あんなに優しかった一郎さんでしたが、人が変わったようにヨシさんを叱責する場面も見られました。一郎さんも状況をみていると、認知症状が出ており、かろうじて生活はできているものの、事実上破綻している状況でした。
これ以上、経過を見ては生命の危険性が出てくることもあり、ある日、一郎さんとお話をしました。「一郎さんこれまでヨシさんのお世話本当にご苦労さまでした」「お医者さんも一郎さんが病院に来ないことをとても心配しています。一度一緒に行ってみませんか」と伝えました。
一郎さんは「妻のことが心配なのです。私が先に逝くわけにはいかないのです」と話し始め、病院受診や周囲に頼りたくない切実な理由をお話くださいました。これまで定期的に足を運び、顔を覚えてもらっていたことが功を奏しました。
一郎さんが病院受診に理解を示した後に、娘さんも同行して病院に行き、治療が必要な一郎さんは入院となりました。ひとり暮らしのヨシさんはショートステイを利用し、一郎さんが退院をされる時に介護保険サービスが入ることとなりました。
通常のひとり暮らしであれば、どこかであきらめがつくこともあります。しかし嫁いだ娘さんたちに迷惑をかけまいと、また長年連れ添った相手を気遣い、お互いのできることを必死に支えあってきたおふたりの姿がそこにはあったのではないでしょうか。
それが老老介護・認認介護となり、結果としてSOSの判断が難しくなり、事態をかえって複雑にさせてしまったのではないかと実に考えさせられる事例となりました。
【執筆者プロフィール】
山本 武尊/やまもと たける
社会保険労務士・社会福祉士・主任介護支援専門員・介護福祉経営士1級・ファイナンシャルプランナー2級(AFP)。大学(福祉学)卒業後、大手教育会社を経て、介護業界へ転身。元地域包括支援センターでセンター長として活動。
介護業界の人の優しさに触れると共に、低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため社会保険労務士となる。