事例から考える老老介護・認認介護①自分達でなんとかなると考える高齢者
前回、老老介護・認認介護の方が実はひとり暮らしと比べて、ご両親も子どもたちにとっても状況の把握が難しく、複雑になることをお話しました。
今回は具体的な事例を紹介します。
一郎さん(仮名88歳)と妻のヨシさん(仮名85歳)はふたり暮らし。地域包括支援センターへ娘さんから介護の相談があり訪問をしました。
「私しか妻の世話ができる人間はおりませんので」
「これまでも私たちで他人様に頼らずにやってきましたから大丈夫です」
「何かあれば娘たちがおりますので」
一郎さん(要支援2)は元大企業の重役までされた人で経済的にも自立をしていましたが、家の恥は世間の恥とでも思っているのか、とにかく人の助けを借りようとしない人でした。我慢をすること、人の世話にならないことをまるで美徳のように考えており、認知症状がある妻のヨシさん(要介護1)の世話をしていました。
娘さんたちから介護保険を利用して周囲の力も借りようと提案をしても「今はまだ大丈夫です」「困ったことがあればそのときはお願いをします」と言われて、介護保険サービスの利用を拒否され続けていました。
ヨシさんは認知症がありながらも、これまでの生活習慣の延長線上でヨシさんが料理をつくり、身体的に一郎さんがヨシさんを支えているとの状況だといいます。
しかし、生活実態を把握したところ、一郎さんが車を運転してスーパーで買った総菜を食べて生活をしていることが分かりました。
娘さんも遠方に住むため、地域包括支援センターの職員が定期訪問をしながら介護保険サービスにつなげようと経過観察をしていくこととしました。
几帳面な一郎さんは毎月かかさず病院受診をしていましたが、3ヵ月前から病院の受診はしておらず、「まだ薬があるから大丈夫です」と心疾患の既往歴があるにもかかわらず服薬管理ができていない状況でした。
ヨシさんは「私は頭がおかしいが、ほら身体はこんなに元気なのですよ」と、周囲が不安になる発言もありました。
次回はこの事例の具体的な対応策をお話しします。
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【執筆者プロフィール】
山本 武尊/やまもと たける
社会保険労務士・社会福祉士・主任介護支援専門員・介護福祉経営士1級・ファイナンシャルプランナー2級(AFP)。大学(福祉学)卒業後、大手教育会社を経て、介護業界へ転身。元地域包括支援センターでセンター長として活動。
介護業界の人の優しさに触れると共に、低待遇と慢性的な人手不足の課題解決のため社会保険労務士となる。