認知症の人にとっての外出
朝、窓を開けて風を感じ、外に出る。誰かに会いに行く、買い物に行く、ちょっとそこまで歩く。そんな何気ない「外出」は、誰もがあたり前にやっていることです。特別な理由がなくても、人は外に出ます。
認知症のある人(以下、本人)にとっての外出も実は全く同じです。本人もまた、「外に出たい」「いつもの道をぶらっと歩きたい」「好きなお店に行きたい」という自然な気持ちを抱きます。認知症になったからといって、外出したい気持ちがなくなるわけではありませんし、「外に出ること」で気持ちが落ち着いたり、気が晴れたりします。
一方、家族や周囲の人の立場で、認知症の診断を受けた途端、「外に出るのは危ない」「迷子になるかもしれない」と、本人がひとりで外出することに不安が生じてしまう方もおられると思います。そのような気持ちが生じるのは、本人を大切に思っているからであるとともに、これまで、「認知症」について、何もできなくなり、わからなくなるというイメージが強く発信されてきた結果ではないかと思います。
しかし、実際は、「認知症」という診断を受けたからと言って、その人に大きな変化が急激に起こり、何もわからなくなり、何もできなくなるわけではありません。もちろん認知症は徐々に進行しますが、少しずつです。近年、国の施策では、「新しい認知症観」という考え方が重視されるようになってきました。これは、認知症になったらすべてができなくなるのではなく、認知症になってからも、「やりたいこと」「できること」があり、住み慣れた地域で人とつながりながら、自分らしく暮らし続けられるという考え方です。
こうした考え方は、「認知症の人の外出をどう支援するか」という問いに対して、「どう守るか」「どう制限するか」ではなく、「どう一緒に暮らし続けるか」という方向へ視点を変える必要があることを示しています。
外に出ることは、風景に触れ、人と交わり、居場所を感じ、自分が「ここにいていい」と思えることであり、認知症のあるなしにかかわらず、私たち一人ひとりが望み、必要としていることです。
外出を支えることは、「認知症の人の特別な支援」ではなく、「あたりまえの暮らしをともにつくる営み」の一つと捉えることができるのではないでしょうか。
【執筆者プロフィール】
中村 考一/なかむら こういち
社会福祉法人浴風会 認知症介護研究・研修東京センター 研修部長。
日本社会事業大学卒業、日本社会事業大学大学院修了。博士(社会福祉学)。
社会福祉士・介護福祉士。著書に『みんなで学ぼうその人を中心にした認知症ケア』(ぱーそん書房、2016)など。