認知症本人の視点から地域を結ぶ
一人ひとりの外出を大切に考えていくと、暮らしを支える地域のあり方にも自然と目が向きます。その視野の広がりが、結果として外出しやすい地域を育てていく力になる――。
認知症の人が外出しやすい地域づくりの取組みは全国に数多くありますが、今回はそうした視点から、東京都大田区の「みま~も」と福岡市の「認知症フレンドリーシティ」を紹介します。
地域に根ざした実践:
「みま~も」(東京都大田区)
「みま~も」(おおた高齢者見守りネットワーク)は、地域で暮らす人びとが自分たちのまちをより暮らしやすくするために始めた取組みです。2008年の開始以来、地域包括支援センター、医療・介護の専門職、商店街、企業などが連携し、「気づき・見守り・支え合う」を合言葉に活動を広げてきました。
特徴的なのは高齢者見守りキーホルダー制度です。番号を登録しておけば、外出先で道に迷ったときも本人や家族、地域が安全につながります。さらに「アキナイ亭」など、誰でも立ち寄れる交流拠点でのミニ講座やサロン活動も行なわれています。
これらの取組みは単なる見守りにとどまらず、人が自然に顔を合わせ、暮らしを共有する日常のつながりを生み出してきたことが報告されています。
都市規模で広がる挑戦:
「認知症フレンドリーシティ・プロジェクト」(福岡市)
福岡市が進める「認知症フレンドリーシティ・プロジェクト」では、認知症の人を一方的に守られる存在とみなすのではなく、地域社会をともにつくる市民として尊重することを大切にしています。市が策定した「認知症の人にもやさしいデザイン」は、駅や公共施設にわかりやすい案内や色分けされた床サインを広げ、誰もが安心して歩ける環境をめざしています。市内各地の認知症カフェや交流の場は、本人が主体的に出かけ、地域の人と対話しながら役割を持つことができる目的地です。
また、「福岡市認知症フレンドリーセンター」は、認知症本人・家族に限らず、地域の人、医療・介護関係者、認知症に興味のある人など誰でも自由に訪れることができる場所です。展示やワークショップを通じて認知症の人が感じている世界を体験的に学ぶ拠点となっています。
市民や家族がこうした場で学ぶことは、偏見をやわらげ、家族や地域の外出支援行動を変えていく可能性があるでしょう。
体験と学習が循環する場を
デザインし地域を育てる
「みま~も」や福岡市の取組みは、規模や手法に違いがありますが、どちらにも体験と学びの循環が通底しています。地域での体験を通じて学び、理解が深まることで次の実践が生まれ、外出の環境が少しずつ厚みを増していく可能性があります。本人が自分の言葉で語る小さな願いや日常の発信が家族や近隣、専門職、行政へと広がり、地域を変えていく――その過程こそが、外出を「あたりまえ」にしていく道筋を示唆しているのではないでしょうか。
外出支援の要は、特別な配慮よりも本人と会い、つながることです。認知症の人をひとりの市民として尊重し、その人の視点で地域を見つめ直すとき、体験と学びが循環し、外出の環境を育てていく可能性が開けます。出会って知ることは、偏見をやわらげる第一歩になりえます。
体験を共有しながら学びが自然に深まっていく――そんな場をどう育て、広げていけるかをみんなで考えていくことが、外出の環境をより豊かにする鍵になるかもしれません。
【執筆者プロフィール】
中村 考一/なかむら こういち
社会福祉法人浴風会 認知症介護研究・研修東京センター 研修部長。
日本社会事業大学卒業、日本社会事業大学大学院修了。博士(社会福祉学)。
社会福祉士・介護福祉士。著書に『みんなで学ぼうその人を中心にした認知症ケア』(ぱーそん書房、2016)など。