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「食べる」ことが難しいとき

一般公開日:2026.9.20

 私たちは日々、当たり前のように食事をしています。目の前の料理を見て、箸やスプーンを使って食べる。この一連の流れは自然に行なわれていますが、実際には身体の状態や気分、周囲の環境、人との関係など、さまざまな要素のなかで成り立っています。

 例えば、不安が強いときや疲れているとき、体調がすぐれないときには、食欲がわかないことがあります。周囲が騒がしければ、食事に集中できず手が止まることもあります。食べられないという状態は、特別なものではなく、私たちにも日常的に起こりうるものです。

 認知症のある人の場合、この「食べる」という流れのなかで、いくつかのつながりが途切れやすくなります。その背景の一つに、中核症状と呼ばれる認知機能の変化があります。中核症状には、記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下といった基本的な認知の変化に加え、感覚機能は低下していないのに目の前のものが何か分かりにくくなる(失認)、体の機能は低下していないのに意図した動作が難しくなる(失行)、必要なことに注意を向け続けにくい(注意機能低下)などが含まれます。

 これらは個別に現れるというよりも、重なり合いながら影響します。そのため、「それが食べ物だと分かる」「何から食べるか判断する」「食べる動作を組み立てる」「注意を保つ」といった過程のつながりが途切れると、食事は急に難しい行為になります。できなくなったというよりも、「どうすればよいかがつながらなくなっている」と捉えたほうが実態に近い場合もあります。

 このように整理すると、「なぜ食べるのが難しいか」はある程度説明できます。例えば、白いご飯と白い茶碗では境界が分かりにくく、食べ終えたと感じてしまうことがあります。周囲の音や人の動きに注意が向くと、食事への集中が途切れます。「食べてください」と言われても、行為の手順がつながらず動き出せないこともあります。

 そのため、色のついた器を使う、料理の数を絞る、静かな環境を整える、一口分だけ介助するといった工夫が有効になる場合があります。その人が難しくなっていることを見極めて、難しいことを手伝うという考え方です。

【執筆者プロフィール】

中村 考一/なかむら こういち

社会福祉法人浴風会  認知症介護研究・研修東京センター 研修部長。
日本社会事業大学卒業、日本社会事業大学大学院修了。博士(社会福祉学)。
社会福祉士・介護福祉士。著書に『みんなで学ぼうその人を中心にした認知症ケア』(ぱーそん書房、2016)など。

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