「食べることの難しさ」とどう付き合うか
ここまで見ると、「症状に応じて環境や関わりを調整する」という理解で整理できるように見えます。
ただ、少し立ち止まって見てみると、同じように食事が止まっているように見えても、その理由が同じとは限りません。目の前のものが分かりにくい場合もあれば、周囲が気になっている場合もあります。あるいは、食事とは直接関係のない思いや不安が影響していることもあります。つまり、見えている行動だけでは、その人にとって何が起きているのかは分かりません。
例えば、ある施設では、「家に帰りたい」と繰り返し話し、食事が進まなかった方がいました。食事内容や声かけを工夫しても、好きな食べ物をお出ししても、状況は変わりませんでした。
スタッフは、どうしてだろうと悩みます。本人に尋ねても、「帰りたい」の一点張り。体重も落ちてきており、年齢の高い高齢者にとっては大きな影響がある事態です。そのスタッフのケアチームでは、話し合い、まず本人の望むことを実現してみようという結論に至りました。
実際に自宅の近くまで行ったものの、すでに別の人が住んでおり、家を眺めているだけでしたが、しばらくたった後に本人から帰ると言い出され、施設に戻る時に「おにぎりどうですか」とお誘いすると、コンビニのおにぎりを食べてくれました。
この方の場合は、認知症だから食べないということではなく、願いがかなわないとか、納得できないといった気持ちが食事を食べないという行動として表出されていたのかもしれません。
食事の場面では、体調や姿勢、気持ちの状態といった身体的・心理的な側面と、認知機能の変化による分かりにくさが重なり合っています。そのため、環境や方法を整えることとあわせて、その人がどのような状態のなかにいるのかを見ていくことが欠かせません。
うまくいかないとき、その場で何が起きているのかを少し見てみる。すると、「食べられない」という一つの見え方のなかにも、さまざまな理由やあり方が含まれていることに気づきます。
食事がうまくいかないとき、その背景にはさまざまな要因が重なっています。体調や姿勢、気持ちの状態といった身体的・心理的な側面、認知機能の変化による分かりにくさ、そしてその人がどのような時間や状況のなかにいるのかということ。それぞれが影響し合いながら、食事の場面は成立しています。
そのうえで、本人なりのやり方、家族としての関わり方、専門職としての支え方を、それぞれの立場から少しずつ重ねていく。そうした積み重ねのなかで、食事の時間のあり方は、少しずつ形を変えていくのかもしれません。
参考リンク
●認知症BPSD対応法(動画・資料)![]()
― 認知症の行動・心理症状(BPSD)への具体的な対応を、動画を中心に実践的に学べるサイト
●認知症ちえのわnet![]()
― 認知症のある人や家族に向けて、生活に役立つ工夫や情報を分かりやすく紹介しているサイト
【執筆者プロフィール】
中村 考一/なかむら こういち
社会福祉法人浴風会 認知症介護研究・研修東京センター 研修部長。
日本社会事業大学卒業、日本社会事業大学大学院修了。博士(社会福祉学)。
社会福祉士・介護福祉士。著書に『みんなで学ぼうその人を中心にした認知症ケア』(ぱーそん書房、2016)など。