介護現場のヒヤリハット 中堅・リーダー向け
Q2 介護事故が発生する背景には、どんな要因がありますか?
現場におけるケース検討を続けていく中で、介護事故に結びつく要因にはいくつかのパターンがあることがだんだんと見えてきます。その要因を大きく分けると3つに分類できます。第一に、利用者本人に潜んでいるリスク。第二に、支援する側(職員だけでなく、家族や地域の人なども含む)に潜んでいるリスク。第三に、日々のケアが行なわれる舞台となる環境に潜んでいるリスクです。事故リスクというと、つい対象となる利用者の疾患やADLばかりに目が向いてしまいがちですが、その他にも複合的な要因があることを意識しましょう。
第一の利用者本人に潜むリスクですが、ここでは今述べた疾患やADL(日常生活動作)といった身体状況に加え、その時々の対象者の精神状況やその人が営んできた生活歴、そこから形成されている価値観・人生観なども理解することが必要です。利用者の心の状態や生活に目を向けないと、「身体上のリスクを軽減するには、行動の制御が必要」という本人の尊厳を無視したケアが生じてしまいがちで、それが人の心や価値観にどんな影響を与え、そこから新たなリスクが生じるという点が抜けてしまいます。
第二の支援者側に潜むリスクについては、介護というのが、人と人との関係性の中で成り立つことを考えれば、必ず浮上してくる課題です。例えば、職員側の体調や心の状態が変化すれば、当然のように集中力の低下などが起こります。日々利用者と接している家族側が身体的・精神的に疲労していれば、(虐待リスクなども含めて)様々なトラブルの源泉ともなります。支援者側の態度が変わってしまえば、それは利用者側の心理などにも影響し、その点でリスクが高まるケースもあります。
第三の環境に潜むリスクは、分かりやすい例でいえば、「段差につまずいて転んだ」「福祉用具がその人の身体にあわなくて事故が生じた」などというケースが見られます。注意したいのは、それらのリスクはいったん「改善した」と思っても、様々な要因が絡む中で再び悪化するケースがあることです。例えば、利用者や支援者の状況によっては環境整備に手を加えることも必要でしょう。つまり、「変動するリスク」なのだということを頭に入れておく必要があるわけです。