介護現場のヒヤリハット 中堅・リーダー向け
Q23 利用者側から「法令違反」のことを求められるときはどのように対処したらいいのでしょうか?
介護保険制度では、事業者や現場職員に対してサービス提供上のさまざまな運営基準を課しています。それらの基準と現場で利用者側が求めてくることとの間に、時としてズレが生じることがあります。利用者やその家族と直接接する担当職員にとっては、利用者側の意向と法令における義務との板ばさみになるケースもあるわけです。
例えば、訪問介護において制度上はできないこと(例:庭の草むしりやペットの餌の世話など)を利用者が求めてくるケースや、ケアマネジャーには月1回の利用者宅訪問(モニタリング)が義務づけられているのに、利用者家族が本人に会わせてくれないといったケース(虐待などが疑われる場合などに見られる光景)などです。
現場の担当者としては、常々「利用者側の意向を尊重する」という理念のもとに業務を行なっているゆえ、ついその場の空気に流されて相手の言うことを聞いてしまいがちです。しかしながら、もし仮に「制度上できないこと」をしてしまったり、逆に「しなければならないこと」をしなかった場合、仮にそこで事故やトラブルが発生すれば、法令違反を犯した立場となる担当者は法的な責任を厳しく問われることになります。使用者責任が生じる事業者も同様です。
つまり、利用者側の言い分に流されてしまうことで、サービス提供側にとって極めて大きなリスクが生じるわけです。このリスクを管理するには、まず、現場担当者の研修に際して、「結果の重大性」を具体的に伝えることが求められます。例えば、先の例でいえば、仮に発覚した場合に指導・監査が入るだけでなく、報酬を返還しなければならない事態も生じます。これは当人の職業生活だけでなく、職場内の他の仲間の生活も脅かすことになるのだということを意識させましょう。
同時に、利用者側の要求に流されないための方策も必要です。大切なのは、法令違反のことを求めてくる利用者側の心理には重大な課題が潜んでいて、それは何かという視点でケース検討を重ねることです。表面上の言葉ではなく、その影に隠れた課題を解決するのが本当の意味での利用者支援であるという職業観を育てることにより、「流されない」風土を地道に築くことが必要です。