【事例3】
子どもが実家に戻って上手くいった ― 単身戻り、看取りました
タカシさん(40代仮名)は大阪市内の大手企業に勤めています。妻との二人暮らし。妻も正社員として働いています。愛知県で一人暮らしをする70代の母親に介護が必要となり当初は週末を利用して隔週で通っていました。あるとき母親が風邪をこじらせて入院。1週間ほどで退院できたものの、一人にさせておくことが気がかりとなりました。ガンも患っており、通院も必要でした。
タカシさんは考えた末、妻の勧めもあり、勤務先に愛知県内の支店への異動願いを出しました。上司の計らいもあり、3ヵ月後に転勤できることになり、単身、実家に移りました。母親と同居を始めておよそ2年後に母親は逝去。「傍で看取ることができてよかった」とタカシさん。
ただし「個人的な理由で転勤させてもらったので、キャリア的にはキズとなったかと思います。長い目で見ると、将来後悔することもあるかもしれませんが、自分で考え、選んだ道ですから」とタカシさんは話します。
ポイント
離れて暮らす親の医療の必要性が高くなると、付き添いなどのために往復する頻度が増えることが一般的です。また、昨今入院できる期間は非常に短くなっており、入退院を繰り返すようになると、手続き面を含め子の出番が増えます。退院後の生活も考えなければならず、この段階で、親を呼び寄せる、もしくは子が実家に戻ることを検討するケースが多くみられます。
ただし、課題は山積みです。タカシさんのところがうまくいったのは3つのポイントの相乗効果なのではないでしょうか。
1.大手企業勤務で、実家から通えるところにも支店があった
2.配偶者の理解があり、別居できる環境だった
3.母親の余命がある程度見えていた
解説
最大のポイントは、タカシさんが大手企業勤務で、実家から通えるところにも支店があったことが挙げられます。
しかし、たとえ支店があっても、希望が叶うとは限りません。また、タカシさんが言うように、キャリアとして考えた場合、将来に不安を残すこともありえるので異動願いを出すのはよく考えてからにすることが大切です。
2つ目は、配偶者の理解を得られたことだといえるでしょう。タカシさん夫婦には子どもがいないことも影響しているかもしれません。子育て中だと、一方が親のところに移ると寂しかったり、負担が集中したりしますから。親のために、家族がバラバラに暮らすのはおかしなこととも言えます。
とはいえ、皆で親のところに戻るとなると、配偶者や子の生活にも大きな影響が生じます。
3つ目のポイントは、母親がガンを患っており、ある程度余命が見えていたこと。人生100年時代と言われる通り、特に女性は100歳以上まで生きることが珍しくありません。70代の親なら、介護期間が20年、30年に及ぶことも考えられます。長期化すれば、どこかにひずみが生じることになるでしょう。
実家に戻る決断をする場合は短期的な課題だけでなく、中長期的な課題も検討し、「こんなはずではなかった」とならないよう注意したいものです。