【事例4】
子どもが実家に戻って上手くいかなかった ― 母娘の関係がギクシャク
ユカさん(50代仮名)は1年前、夫が定年退職を迎えたのを機に、千葉県から山陰地方の実家に戻りました。実家では80代の母親が一人で暮らしていました。夫とは同郷。夫の両親は亡くなっていますが、幼少期を過ごした街なので、帰ることに賛成してくれたそう。夫は夫婦で野菜作りをすることを楽しみにしていました。
Uターンして、最初の1ヵ月は問題なく過ぎました。ところが、次第に、洗濯物の干し方、食器の洗い方、掃除の仕方に母親が小言を言うように。味噌汁を作っても「こんな塩辛いのは飲めない」。
家の中がギスギスしてきた頃、夫が脳梗塞で倒れました。実家の近所には設備の整った病院がありません。幸い軽度でしたが、再発が心配です。母親との関係に加え、夫の健康問題。ユカさんは元の住まいに戻ることを検討しています。
ポイント
定年退職を機に、実家に戻ることを検討する人は少なくありません。特に、高齢の親が一人で暮らしていると傍で支えてあげたいという気持ちにもなります。
しかし、行動に移すときは、「介護」という観点だけでなく、さまざまな方向から課題を探っておきたいものです。ユカさんのUターンがうまくいかなかったのには3つのポイントがあると思います。
1.「実の親子だからうまくいく」と甘く考えていた
2.夫や自分はいつまでも元気だと過信していた
3.地方の医療機関の充実度を考慮していなかった
解説
言い古されているように「嫁姑」だと難しいことを想像するのですが、実の娘と母親なら大丈夫、と甘く考えがちです。
しかし、義理の関係と違い、遠慮がなく、言いたいことを言い合うのでこじれやすい面もあります。それに、親子とはいえ、別々に暮らした年月が長いと、価値観や生活スタイルは違って当たり前です。
また2つ目ですが、ユカさんに限らず、高齢の親がいると、「自分の老い」に鈍感になっていることがあります。「子」と言っても、中高年です。なかには、後期高齢者(75歳)になってなお、親の介護をする子もいます。
ユカさんにとって夫が倒れることは全くの想定外だったようですが、今後、同時進行で母親と夫のダブル介護となる可能性もあるのでは......。ユカさんだって、倒れないとは限りません。
そして、介護のことを考える際に切り離せないのが医療のことです。都会に暮らしていると、たくさんの病院があるので忘れがちですが、田舎では、医療の選択肢が狭まることが一般的です。それは親のことに限らず、ユカさん夫婦のように自分たちが倒れた場合にも大きく影響します。
実家に戻る場合は、入院はもちろん、リハビリや在宅での医療に対しても、その地域にどのくらいの選択肢があるか調べておきたいものです。