2.その症状、薬の影響かもしれません
加齢に伴い、ふらつく、つまずいてこけそうになる、だるい、眠れない、やせてくるなどの症状がみられます。老化に伴って心や体にさまざまな症状がまとまって出てくることを老年症候群といいます。
高齢者では、薬物有害事象(※)が老年症候群として現れることも多く、年齢のせいだと見過ごされがちであるため注意が必要です。
老年症候群を含めて薬との関係が疑わしいときは、処方をチェックし、中止や減量、またはより安全な薬剤への切り替えが検討されます。
上記のような症状がでた場合に必ず薬による有害事象であるとは言えませんが、特に、高齢の患者さんの生活に何か変化が出たり、新たな症状が出る場合には、まず薬が原因ではないかと疑ってみましょう。
※薬の使用後に生じる有害な症状や徴候。薬との因果関係の有無を問わないより広い概念です。
「副作用」は、有害事象のなかの一部であり、薬との因果関係が疑われるものや関連が否定できないものをいいます。
ここでは、加齢のせいだとつい見落としがちな薬物有害事象の事例を紹介します。
<事例1>疲労感・食欲不振
Aさんは、整形外科に通院し骨粗鬆症でビタミンD製剤(骨折予防)を服用しています。夏の暑さなどもありしばらく疲労感、食欲不振が続いていました。食事の量が減っていたためか便秘も起きるようになりました。
手持ちの薬がなくなるので整形外科に受診し血液検査を行なったところ、腎機能が低下しており、血液中のカルシウム濃度が非常に高くなっていることがわかりました。
解説
通常では問題がおきないような場合でも、高齢者は脱水をきっかけに腎機能障害を起こし、それによりビタミンD製剤によって血液中のカルシウム濃度が高まってしまうことで、疲労感・食欲不振・便秘などが現れることは少なくありせん。
<事例2>ふらつき・ふるえ
Bさんは食欲不振・吐き気があり内科にて胃腸のはたらきを良くする薬をもらい、飲んでいました。薬をやめるとまた調子が悪くなるかもしれないと不安なため薬をもらい長期的に服用を続けていました。
以前からふらつきや手足のふるえがあり歳のせいと思って過ごしていたところ、道で転倒し救急搬送され入院。入院先の病院で内科で処方された薬の影響によるパーキンソン症状と判断され、薬は中止となりました。
解説
ポリファーマシーは単純に薬剤数の大小だけの問題ではなく、不必要な処方が放置されていることも問題の中核となっています。
また新たな病状が出現した際に、それを薬で手当していくと薬物有害事象に薬で対処し続ける処方カスケード(服用している薬による有害な反応が新たな病状と誤認され、それに対して新たな処方が生まれるというもの)と呼ばれる悪循環に陥る可能性があります。
<事例3>食欲低下・胃痛
Cさんは物忘れが目立つようになり、アルツハイマー型認知症と診断され、内科から抗認知症薬が処方されました。
しばらく飲み続けていたところ食欲低下・胃痛が起きるようになり、家族は心配し消化器内科に連れていき診察を受けました。そこでは胃酸をおさえる薬が処方され、飲み始めたところ胃の症状は改善してきました。
治療を続けていると、せん妄が現れるようになり、認知症が悪化したと思い脳神経内科を受診することに。そこで抗精神病薬が処方され、併用するとせん妄は見られなくなったのですが、今度はぼーっとすることが多くなってしまいました。
解説
Cさんのケースでは症状ごとに医療機関を別にするのではなく、信頼できるかかりつけの病院、かかりつけの薬局をそれぞれ1箇所にしておくことが必要でした。そうすれば抗認知症薬による薬物有害事象を疑い早期に対処できていたはずです。
かかりつけ医やかかりつけ薬剤師をもち、気になることを気軽に言い合える関係性を築くことは、処方カスケードを防ぎます。