「認知機能の低下」に間違えられることも
医療や介護の現場でも、従事者のマスク着用と対象者の聴覚能力の劣化による問題が増えています。
一昨年、私の母が85歳で亡くなりました。不注意から腕を骨折し、その治療のために受けたさまざまな検査で肺ガンがみつかりました。結局、1年と経ずに亡くなったのですが、それまでにいろいろな医療機関で検査を受けました。少しだけ耳が遠かった母は、行く機関、行く機関で、マスクをして早口で喋る医師や看護師の話が聞き取れませんでした。
ある病院で私が母のカルテを覗いたら「認知機能の低下アリ」と書かれていました。
母はそれを知り、とても辛く悲しい思いをしたようです。
しかし、私も私の家族も、母の認知機能が落ちているという認識はありませんでしたから、それを医師に話しそれ以降は私が通訳(?)するようにしたら、カルテから認知機能低下の文字は消されました。
「医師や看護師がもう少し伝わる話し方をしてくれたら、こんな思いをさせずに見送れたのに」。そんな風に思ったものです。
皆さんは相手に話が伝わらない時、どうされていますか?
大声で何回か話し直してみてそれで伝わらなかったら、認知機能の低下があるとみなすか、理解力の乏しい人だと決めつけるか、そんな判断をしてはいないでしょうか?
もちろん、その判断が正しい場合もあるでしょう。しかし、あなたの話し方が悪いせいで誤認してしまっているケースもあることをぜひ知って欲しいのです。
【執筆者プロフィール】
坂本 真一/さかもと しんいち
(株)オトデザイナーズ代表取締役。難聴など聴こえに関する専門家。2015年より九州大学および京都光華女子大学客員教授 。
著書に「音響学を学ぶ前に読む本」(出版社:コロナ社)など。