介護サービスの質を高める取組み②
認知症のBPSDを改善する
組織的な取組み
介護が必要になる原因で、最も多いのは認知症です(国民生活基礎調査より)。
認知症では、記憶や見当識(場所や時間などの認識)が衰える中核症状に加え、そこにさまざまな環境面の刺激が加わることで本人の不安や混乱などが生じる行動・心理症状(BPSD)が見られます。介護の手間が特に要されるのがBPSDですが、一方で環境や健康状態の改善で緩和を図ることもできます。
今回の公的介護保険制度改正では、このBPSDを改善するための組織的な取組みを評価した上乗せの給付(加算)が誕生しました(認知症チームケア推進加算)。
この仕組みですが、BPSDの緩和ケアについての専門的な研修を積んだ職員を中心にチームを形成します。そのチームで、利用者一人ひとりのBPSDの状態を測定しつつ、改善に向けた計画を立ててケアを実施します。
その測定方法や計画立案の進め方については、厚生労働省が専用のワークシートを示しています。BPSDを悪化させる要因には、音やにおい、気温などのほか本人の体調や服薬の状況などがあります。それらを考慮しながら、ワークシートに沿って原因が探られます。
この仕組みの対象は、特別養護老人ホームなどの介護保険施設や認知症グループホームです。
なお、デイサービスや小規模多機能型居宅介護でも、やはり専門的な研修を積んだ人を配置し、職員に認知症ケアの技術的指導を行なうための仕組みの強化も図られています。
介護度悪化防止のカギとなる
口腔への取組みも
介護度悪化を防ぐには、立つ・歩くなどの運動機能の訓練が重要です。一方で、運動機能を上げるには、栄養状態の改善も欠かせません。
そして、栄養改善には、口からしっかり食べるための口腔機能の維持・改善も必要です。
今改正では、この口腔機能に関する仕組みに力が入れられました。例えば、訪問介護・看護といった訪問系サービスなどで、利用者の口腔の状態をチェックする仕組みが誕生しています(口腔連携強化加算)。
ホームヘルパーなどが利用者の口のなかを見て、歯や舌の汚れ、歯肉の腫れ・出血、むせの有無などをチェックし、その結果をケアマネジャーや歯科医師に報告します。これにより、早期に歯科診療などにつなげ、栄養改善や運動機能の改善の効果も高めるわけです。デイサービスでも同様の取組みが行なわれていますが、今改正によりデイサービスを利用しない人でも口腔機能の改善が進む期待が高まります。
このように、サービスの質向上に向けた取組みが進む一方、そもそも「地域のサービス量が十分に保たれるのか」も気になるところです。次回は、その点にスポットを当てます。
【執筆者プロフィール】
田中 元/たなか はじめ
昭和37年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・介護等をテーマとした取材、執筆、ラジオ・テレビ出演、講演等を行なっている。著書に『介護事故・トラブル防止完璧マニュアル』『全図解イラスト 認知症ケアができる人材の育て方』(ぱる出版)など多数。