労働力人口が減っていく未来に向けて
介護現場にうながされている
「生産性」
2024年度の制度改正では、特別養護老人ホームなどの施設系サービスや介護付き有料老人ホームなどの居住系サービスをはじめとして、これまでにないタイプの仕組みが誕生しました。それが、介護現場で「生産性向上」をうながすことをテーマとした基準や加算です。
この場合の「生産性向上」とは、介護現場にセンサー(※1)やICT(※2)などのテクノロジーを導入し、職員の業務を効率化する(※3)ことで、限られた人員でもケアの質を維持・向上させるという取組みです。
「生産性向上」をはじめ、「テクノロジー」や「業務の効率化」という言葉が出てくると、「人を支える介護になじむのか」と眉をひそめる人がいるかもしれません。こうした考え方が出てきたのは、急速な少子化によって労働力人口そのものが減少する時代が確実にやってくるのを見すえたことによるものです。
新設された生産性向上推進体制加算
例えば今年4月からの制度改正では、生産性向上推進体制加算という仕組みが設けられました。これは、先のテクノロジー等を導入したうえで、利用者の生活の質(QOL)や職員の心理的負担・休憩・仮眠・有給休暇の取得率などがどう変化したかを、一定の方法で測定することなどを求めたものです。
テクノロジーの導入で職員の心理的負担が減り、休憩・休暇もしっかり取れるとなれば、利用者に接する時の心の余裕も生まれます。それによって利用者の生活の質も向上する─こうした好循環が生まれたという結果が明らかになると、現場により高い給付(介護報酬)が発生するという具合です。
また、こうした取組みを行なったうえで、省令で定められた現場の職員配置を特例的に緩和するという仕組みも定められました。
時代は変わっても介護の基本は
変わらない
ここまで見たように、公的介護保険制度が始まって間もなく四半世紀が過ぎようとする中、介護を巡る環境は大きく変わりつつあることが分かります。ただし、テクノロジーなどがどんなに進歩しようと、大切なのは「介護が必要になってもその人らしい人生をおくること」であり、それを実現することが介護サービスの使命であることに違いはありません。
時代は変わっても、介護の基本は変わりません。その土台が揺らいでいないかどうかを、公的介護保険を担う被保険者として、しっかり見極めていくことがますます必要になります。
(※1)夜間に利用者がベッドから離れようとしている、あるいは離れた場合を感知して、ステーションにいる職員に知らせるもの
(※2)職員が離れた場所の同僚に応援等を依頼するために装着するインカム、スマホ等により現場で介護記録等を作成するソフトなど
(※3)直接利用者と接しない業務(掃除やベッドメイク、配膳・下膳など)を専門職以外の職員に任せるといった業務分担など
【執筆者プロフィール】
田中 元/たなか はじめ
昭和37年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・介護等をテーマとした取材、執筆、ラジオ・テレビ出演、講演等を行なっている。著書に『介護事故・トラブル防止完璧マニュアル』『全図解イラスト 認知症ケアができる人材の育て方』(ぱる出版)など多数。
2024年度公的介護保険制度改正で何が変わる?
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