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移動シーンのヒヤリハット

 毎日の生活は、生活の場を移動すること(例:居室から食堂)で成り立っています。
 高齢になり歩行が困難になっても、杖や歩行器で身体を支えたり、車いすを利用することで移動は可能です。そのため、「利用者が杖や歩行器を安全に使えるか」「介護職員が適切な車いす介助をできるか」が移動時の転倒などのリスクに大きく影響します。

<移動シーンのヒヤリハット
について考えてみよう!>

 下のイラストには4つのヒヤリハットが書かれています。どこにリスクがあるか考えてみましょう。

「移動シーンのヒヤリハットについて考えてみよう!」の画像①

ヒヤリハット①
介護職員が利用者の手を持って、手引き歩行をしている

ここが危ない!

「移動シーンのヒヤリハット①」の画像

 介護職員が利用者の手を持つ手引き歩行は、バランスを崩し転倒するリスクがある

原因

 利用者の手を持っていることにより、引っぱる力が強くなり、利用者の重心が前方に移ってしまうことが原因です。
 さらに転倒しそうになったとき、介護職員が利用者の手を持っていることで、とっさに支えられず、一緒に転倒するリスクがあります。

対策

 手引き歩行の基本を理解して行ないましょう。

  • ①介護職員は、利用者の正面に立ち、利用者の肘を下から支えます。
  • ②利用者に介護職員の腕を上から持ってもらい、介護職員は進行方向に背を向けます。
  • ③利用者に「歩きはじめてください」と声かけし、介護職員は利用者が出した足と同じ側の足を引きます。
  • ④これを左右くりかえして、利用者のペースにあわせて歩きます。

(補足解説)
 片麻痺がある利用者の杖歩行の場合は、原則として介護職員は利用者の麻痺側後方の離れすぎないところに位置します。麻痺側には体重がのりにくくバランスを崩しやすいため、麻痺側に転倒したときにすぐに支えることができるからです。
 介護職員は麻痺側後方から、常に利用者の足の運びや体調を観察し見守りましょう。

ヒヤリハット②
手引き歩行中の介護職員がほかの介護職員と会話をしている

ここが危ない!

「移動シーンのヒヤリハット②」の画像

 会話に気をとられ、ほかの利用者にぶつかってしまうリスクがある

原因

 ほかの介護職員との会話に気をとられ、進行方向の安全確認ができていないことが原因です。歩行中は、介護職員は進行方向に対して逆の方向を向いているので、後ろを確認しないと危険です。

対策

 介助中はほかの職員との不必要な会話は行なわず、利用者の歩行状態や周囲の安全を常に確認することで、移動時のリスクを回避できます。

ヒヤリハット③
車いす介助中にフットサポートが上がっていて、利用者の足が床をすっている

ここが危ない!

「居室シーンのヒヤリハット③」の画像

 車いすのフットサポートに足が乗っていない状態で移動すると、利用者の足が引きずられてケガをするリスクがある

原因

 利用者の足元の状態を確認していないことが原因です。また、最初だけ確認しても、いつの間にか足が床についているということがあります。
 特に小柄な介護職員が座高の高い大柄な利用者を介助する場合は、車いすの後ろの位置からフットサポートが死角になり、利用者の足元の状態に気づきにくくなります。

対策

 車いす介助の基本であるフットサポートに足を乗せることを徹底しましょう。日ごろから、動き出す前に利用者に声かけをして確認することも重要です。
 動き出してから利用者の足を乗せていないことに気づいた場合は、停止してブレーキをかけ、ケガがないか足の状態を確認した上で、フットサポートの上に乗せましょう。

ヒヤリハット④
利用者の体勢が崩れ、仙骨座り(いすに浅く座り、仙骨と背中の2点で支えている状態)で移動している

ここが危ない!

「移動シーンのヒヤリハット④」の画像

 体勢が崩れたまま車いすを押していると、車いすの座面から転落するリスクがある

原因

 高齢になると身体を支える筋力が低下し、座位が不安定になり、体勢が崩れやすくなります。利用者の身体状況にあわない車いすを使用したり、体を支えるための工夫が不足していると車いすからの転落の原因になります。

対策

  • ①急に車いすを押すと、利用者は心の準備ができていないため座位が不安定になります。「動きはじめます」などの利用者への声かけが大切です。
  • ②クッションを使って利用者の体の位置を調整することで、座位が安定します。
  • ③移動中に姿勢が崩れてきた場合は、車いすを停止してブレーキをかけ、前方から座り直しの介助をします。
  • ④福祉用具の専門職に、利用者の身体状況に合った車いすについて相談することも必要です。

知っておきたい⑤ヒヤリハットがおこる要因

 ヒヤリハットの再発防止を検討する際に、要因ごとに分析することで具体的な対策をたてることができます。

利用者側の要因

 高齢になると視力、聴力、嚥下、筋力、認知機能(脳の働き)が低下し、さまざまなヒヤリハットにつながります。

  • 認知機能の低下により、歩行困難であることを忘れて杖を持たずに歩こうとして転倒しそうになる。
  • 咀嚼や嚥下能力の低下により食べ物が口内にたまってしまい、うまく飲みこめずにむせこんでしまう。

介護職員側の要因

 介護職員の介護技術・知識、倫理観の不足もヒヤリハットの大きな要因です。研修などを積極的に受けて、介護技術・知識、倫理観の向上を図りましょう。

  • 介護技術:
    見守りの位置が悪く、利用者が転倒しそうになったときに速やかに支えることができなかった。
  • 介護知識:
    シルバーカーの機能を理解しておらず、歩行が不安定な利用者にシルバーカーの利用をうながして、転倒しそうになった。
  • 倫理観:
    業務のスピードを優先してしまい、利用者ごとに手袋を交換しないままおむつ介助を続けてしまっている。

環境の要因(物的環境・人的環境)

 環境を要因とするヒヤリハットについては、組織やチームでの対応が必要です。事故防止委員会などで改善活動を行ないましょう。

  • 物的環境:
    床に物が置いてあるなど、整理整頓が行き届いていないためにつまずいてしまう。福祉用具や備品の不具合がある中で使用し続けている。
  • 人的環境:
    職員の配置が十分されておらず、職員の目が届かない場面や時間帯が増えている。引き継ぎが十分されず、新しく入った職員が利用者の状態を理解しないまま介助している。

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