居室シーンのヒヤリハット
介護施設の居室は利用者にとってゆったりとくつろげる空間であり、心地良いと感じられる環境が求められます。利用者の衣類や日用品の整理整頓の不備からつまづいて転倒するなどのリスクが発生するため、利用者の居室への入退室時には必ず安全確認が必要です。
また、車いすとベッドの移乗、ベッドでの起き上がり・寝返りなどの身体介護に伴い、利用者のケガにつながる事故が起きやすいので注意しましょう。
<居室シーンのヒヤリハット
について考えてみよう!>
下のイラストには4つのヒヤリハットが書かれています。どこにリスクがあるか考えてみましょう。


ヒヤリハット①
利用者がベッドから起き上がり、床に足がつかない姿勢でベッドに座っている
ここが危ない!

ベッドでの
※端座位:椅子やベッドなどの端に座り、足を下に降ろした姿勢
原因
ベッドに浅く座り、(何もつかまらずに)膝に両手を置き、両足をそろえて足底が床についていない姿勢は不安定で、転落の原因になります。
対策
介護用ベッドの高さを利用者の足の長さにあわせて調整します。
安定した姿勢を保つためには、利用者は深く座り、足底を床につけ、両足を肩幅ぐらいに広げてもらいます。
手でベッド柵(サイドレール)や介助バーを上から握ってもらいます。
ヒヤリハット②
居室の床に脱いだ靴下や本がそのまま置かれている
ここが危ない!

床に物が落ちていると利用者がそれを拾おうとして転倒してしまうリスクがある
原因
利用者に下肢筋力低下、腰や膝の痛みがある場合、中腰になって拾おうとすることで転倒しやすくなります。
対策
床に物を置かないことで利用者の足元の安全を確保し、転倒予防につながりますので、介護職員は常に整理整頓を心がけます。
利用者にはリーチャー(マジックハンド)などを使って座った状態で拾う、あるいは自分で拾わず介護職員に頼んで欲しいことを伝えましょう。
ヒヤリハット③
寝返り介助の際に、ベッド柵(サイドレール)に膝をぶつけてしまう
ここが危ない!

高齢者の皮膚や骨は弱くなっているため、ベッド柵(サイドレール)にぶつけることで、皮膚の裂傷や骨折のリスクがある
原因
寝返る側のベッドの空いている幅(スペース)を考えずに介助することで、利用者がベッドの端に位置してしまい、膝をベッド柵(サイドレール)にぶつける事故がおきます。
場合によってはベッドから転落する可能性もあります。
対策
利用者の体をベッドの端に移動(水平移動)してから寝返り介助をすることで、ベッド中央の位置で安定した
ヒヤリハット④
寝返り介助の際に、腕を体の下に巻き込んでしまう
ここが危ない!

腕が体の下に巻き込まれることで、腕に痛みを感じたり、ケガをするリスクがある
原因
利用者の腕の位置に配慮せずに寝返り介助をすることで、腕が体の下に巻き込まれる場合があります。状況によっては腕の痛みやケガにつながり、そのまま放置すると側臥位の姿勢が崩れたり、腕に体圧がかかって
対策
寝返りの介助の前に、体の下側になる腕を少し外側に開いてから介助することで体の下に巻き込まれなくなります。
寝返り介助をした後は、クッションを活用して安定した側臥位の姿勢を保つことも重要です。
知っておきたい④介護職員のケガ(腰痛、転倒)に
つながるヒヤリハット
介護職員のケガにつながりやすい腰痛と転倒の事例を挙げてみます。
- ①ベッドから車いすへの移乗介助で、前かがみ(不安定な中腰の姿勢)になってしまい、腰に痛みを感じた。
- ②狭いトイレ内で利用者を力まかせに便座に移乗したところ、立位のバランスを崩し、また、腰にも痛みを感じた。
- ③入浴介助で利用者を支えようとしたところ、身体が濡れていたので自身の手がすべり、ふらついて一緒に転倒しそうになった。
これらの事例から、「無理な(不安定な)姿勢での介助」「力まかせの介助」「利用者の力や福祉用具などを十分活用しない介助」がヒヤリハットの原因にあると考えられます。
自分の安全を守るためにも、「ボディメカニクス(※)を用いた介助」「人間の自然な体の動きにそった介助」「利用者の力を引き出す介助」「福祉用具などの環境を活用した介助」のスキルアップを心がけましょう。
※ボディメカニクス:
人間の関節や筋肉の動きなどの観点で考えられた、最小限の力で介護が行える介助技術です。介護する人・介護される人両方の負担を減らすことができます。