コラム:正常色覚が本当に有利なのか?
東京大学 大学院新領域創成科学研究科
教授 河村正二
私たちの視覚には「色」がある。赤や緑や青などを識別できることは、ただ明るい暗い(明暗)を識別できるよりも、便利なことが多い。
魚類・爬虫類・鳥類は、4色型色覚が基本となり、哺乳類は2色型の中から霊長類の中に3色型が現れた。
4色型 色覚 |
「長い波長域の光」、「中くらいの波長域の光」、「短い波長域の光」、「紫外線光」をそれぞれ主に感じる細胞を持つ |
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3色型 色覚 |
上記4種類のうち3種類を持つ |
2色型 色覚 |
上記4種類のうち2種類を持つ |
ヒトやサルの仲間に見られる3色型色覚は「長い波長域の光」、「中くらいの波長域の光」、「短い波長域の光」を主に感じる視細胞により生じ、2色型色覚は「長い波長域の光」と「短い波長域の光」、あるいは「中くらいの波長域の光」と「短い波長域の光」の視細胞により生じている。3色型では、緑の木の葉の背景から、黄、オレンジ、赤などの果実がポップアップして見える。
チンパンジーやテナガザルなどの類人猿やニホンザルやヒヒなどのアジア・アフリカのサルたちでは、「正常な」3色型色覚が自然選択で強固に維持されている。
ところが、中南米のサルの世界では、2色型と3色型が混在する多型色覚が、進化的に安定している。
さらには、2色型のほうが良いという事例まで見つかってきた。
2色型は赤と緑の色コントラストには鈍感だけれども、明るさのコントラストや輪郭の検出に非常に敏感であり、カムフラージュしているものを見つけるには2色型のほうがより強い。
2色型色覚は
赤-緑迷彩に惑わされない
カムフラージュした昆虫を
見つけるのは
2色型色覚の方が上手
そして、ヒトには2色型や「正常」でない3色型が稀とは言えない頻度で全世界に存在する。
3色型は2色型より優れているという「常識」は大事なことを見落としている。
今日見られる多様性の背後には、悠久の歴史がある。その中で培われ、失われずに残ってきた特徴なのだ。
現在、一見不利に思われる形質も、実はそれがあったからヒトは生き延びることができたのかもしれない。
ヒトの色覚多型は、その一例と思われる。
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<明治安田健康開発財団提供>