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存在そのものが価値になるのが
介護職だと思います。
【後編】

【介護福祉士/モデル】上条 百里奈(かみじょう ゆりな)さん

【介護福祉士/モデル】
上条 百里奈(かみじょう ゆりな)さん

モデル兼介護福祉士として、幅広く活躍する上条百里奈さんの後編です。
後編では、講演時のエピソード、若い介護従事者の方々へのアドバイス、今、社会へ伝えたいことを中心にお話を伺いました。

「前編」はこちら

中学校の講演で、最初に福祉に興味がある人を聞いたら250人中3人だったが、講演後全員の手が上がったと伺いました。どのような話をしたのですか?

ご夫婦でうちの施設を利用されていたタケシさんとノリコさんご夫妻(仮名)の話をしました。
誰もが憧れるとても仲が良い、素敵なご夫婦でした。

ある時、タケシさんが体調が悪い中、ショートステイで施設に来てくれたんです。
とてもしんどそうだったので、「無理しなくても」と声をかけると
「おれさ、そろそろ逝くから、どうしても最後にあなたにお礼が言いたくて。だから今日きたんだよ。ありがとうね、ノリコをよろしくね」って。
その3日後に亡くなったんですね。
本当に身体もつらかったと思います。それでも人生の最期にお礼が言いたい相手になれるって、なかなかないと思うんですよ。

介護職は、日常をともにする、常に一緒にいる、気づいたら隣にいる、そういう存在だからこそ、そこまで思ってもらえる相手になれたんだと思うんですね。かかわる時間の少ない例えば医療職や相談員、ほかの職種だったらきっと私は言われていない。

中学生に言ったんです。タケシさんを支えていた専門職はたくさんいるけども、そこまで思ってもらえるのは介護職が一番チャンスがあるって。だからこそ介護って仕事っていいでしょ。お得でしょう?って(笑)。

私たちが見ている世界を共有することで興味を持ってくれて、ただオムツを替える仕事と考えていたところから、「自分の人生以外にいろんな人の人生と一緒に伴走できる。さらにいろいろなアナザーワールドを見ていける」そんな仕事だという事を理解してくれたんじゃないかなって思っています。

「介護職をやめたい」という若い人へのアドバイスは?

やめたいと思ったらやめたらいいんじゃないかと思います。
無理して続ける必要はないのではないでしょうか。自分の人生を犠牲にしてまでこの職に就くのでしたらもっと自分の人生を大事にしたほうがいいと思います。

私は自分の人生を大事にしたいと思ったから介護職を選びました。だから楽しいんですよ。

人の人生を豊かにする仕事をしているのに、自分の人生を豊かにしていなかったら、いいケアにつながらないと思います。
でも「介護職は続けたい」という気持ちはあるのに、壁にぶつかってやめたいというのなら、すごくいいチャンスに恵まれたと思う。

壁は感じられない人もたくさんいます。それを感じられる人は、イノベーションの卵というか、変えられる気づきを持てる人だと思います。

なぜ今自分がつらい思いをしてるのか、自分の仕事のオペレーションに課題があるんじゃないか、業務構成があってるのか、もし社会に課題があるんだとしたら、その課題は何か、を考えられるチャンスだと思う。

だから自分がなぜつらいのかという自己分析を丁寧に細かくやってみるのは、すごく価値のあることだと思います。私も現場で辛くなったらやっていますし、それが今の仕事にもつながっています。

今、高齢者や社会に伝えたいこと

老いていくのが楽しみになる社会になったらいいなと思っています。
よく介護職不足と言われていますが、正確には介護の担い手不足であって、労働力不足なのはどの業界も同じです。人口減少をたどる中、十分な介護職の確保はどうしても限界があります。しかし、介護職がいなくても成り立つ社会があればいいわけですよね。

介護の社会化と言われて介護保険がスタートしましたが、本当の社会化はたぶんこれからだと思っています。

たくさんの施設ができて、認知症の方や高齢者のさまざまな事例が集まり、そこから介護という学問やケアの方法が確立されてきました。
今度はいかに分断させないかです。
施設に入っていても、自宅介護されていても、最後まで経済活動の参加者でありたい。

街の居酒屋やカフェ、図書館に行ったら、車いすの人や高齢者が一定数いることがあたり前になる社会がいいなと思ってます。
私たちの事業所では、認知症があっても障がいがあっても、最期まで自宅で住み続けられるようサポートをしています。住み慣れた地域の甘味処で3時のおやつを食べに行ったり、お酒を飲みに行ったり、遊園地にいってお誕生日のお祝いをしたりします。そのときに店員さんが何度も同じことを話すおばあちゃんに優しく接客できたり、トイレに手をつないで案内してくれる人に出会うと大変助かります。
そういう小さな気遣いがあたり前になってくると、高齢者や障がい者はもっと街にでて行けて、消費者としても社会に参加できるんです。

健常者しかいない街ってすごく違和感だし街としても魅力がいま一歩という感じがします。

今は民間の外出支援サービス等も増えてきましたし、バリアフリー化も進んでいますから、要介護者になっても本人が生き方をますます選べる時代になっていくと思います。そのためには介護を専門としない方々の理解と協力が必須ですね。

プロフィール

上条百里奈(かみじょう ゆりな)

中学生のとき、高齢者に感銘を受け介護ボランティア活動を開始。

2009年、介護福祉士の資格を取得し、老健や特養、訪問介護を経て、現在は小規模多機能型居宅介護で現場に従事。
その傍ら、大学の非常勤講師や東京大学未来ビジョン研究センターの研究協力者をしている。
また、2011年からはモデル、ドラマの介護監修、テレビのコメンテーターなども務め、精力的に介護福祉の発信を行なっている。

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2周年特別編集号 「存在そのものが価値になるのが介護職だと思います。」

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