介護が必要になった家族を介護する場合は、できることは本人にやってもらい、本人のできないことを介助しましょう。例えば、手足に麻痺がある状態でも、福祉用具などを活用して、身の回りのことや外出ができる場合があります。
家族は良かれと思って本人のできることも代わりにしてしまいがちですが、かえって本人の能力を低下させたり、家族の負担が増すことで介護を長く続けることが難しくなります。
5.自宅での介助方法のポイント
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できないところを支える
必要な介助の内容や方法は違う
排泄(トイレ)の介助一つをとっても、要介護者の状態によって「自宅のトイレでの介助」「ポータブルトイレを設置しての介助」「おむつを使用しての介助」などさまざまな方法があります。要介護者の状態や自宅の環境によって必要な介助内容や介助方法は違ってきます。
また、介護状態は変化しますので、状況に応じて介助方法を変えることを意識しましょう。
専門職に相談する
決して家族だけで介護せずに、かかりつけ医、ケアマネジャー、ホームヘルパーやデイサービス職員など専門職に相談し、介助の方法や福祉用具の利用方法を教えてもらいましょう。
地域包括支援センターや地域の介護施設が開催している家族介護者向けの介護教室に参加する方法もあります。
ここでは主に身体機能の低下に着目した介助の方法について解説します。
認知症のかたへの介助やかかわり方については「認知症を知ろう」をご覧ください。
1.身体的な介護の必要度に
応じた介助のポイント
①軽度(要支援1~要介護1 ※)
介護の必要度
一般的には立ち上がりや歩行などに不安定さがみられますが、食事や排泄などの身の回りのことはほぼ自分でできます。介助が必要な場合でも見守りや部分的な介助です。
身体的な介護(排泄、入浴、着替えなど)よりも家事(買い物、掃除、洗濯、食事作りなど)の手助けが中心になります。
介助のポイント
- 歩行が不安定なため、転倒の危険があります。杖や歩行器の利用、手すりの取り付けや段差の解消(住宅改修)などにより、自宅内を安全に移動できる介護に適した環境を作ります。
- 入浴が困難になっている場合でも、福祉用具や住宅改修によって、安全に入浴でき、介助は最小限にすることができます。
ただし、入浴中は浴槽でバランスを崩したり、血圧の変動があるため、ひとりで入浴できる場合も見守りが必要な場合があります。 - 身の回りのことはできても、「重いものを持つ」「高いところに手を伸ばす」「かがんで物を取る」などの動作が困難になるため、家事の手助けが必要になります。
その場合でも、工夫次第で本人ができること(「椅子に座って掃除や料理をする」「マジックハンドを使って床の物を取る」など)もありますので、本人ができることまで介助しないようにしましょう。 - ただし、いつもはできていることが、体調によりできない日もあります。体調の変動に注意し、無理をさせないようにしましょう。
②中度(要介護2・要介護3 ※)
介護の必要度
排泄、入浴、着替えなどの身の回りの動作がひとりでできなくなり、部分的な介助が必要になります。
立ち上がりや歩行が難しくなってきて椅子に座って過ごす時間が長くなり、室内でも車いすを使う場合があります。
介助のポイント
- 歩行が困難になってきた場合、移動の手段がポイントになります。居室・トイレ・浴室などで車いすを使用できる場合は、介助をしながら排泄、入浴を行ないます。
- 車いすが利用できない場合は、居室中心の生活にして、排泄についてはポータブルトイレを設置します。
自宅での入浴が難しい場合は、介護サービスを利用しての入浴、入浴せずに部分浴(手や足を湯につけて洗う)や清拭(蒸しタオルなどで身体を拭く)をします。 - 身体介護(排泄、入浴、着替えなど)が増えてきますが、部分的な介助で十分な場合が多いので、本人の力や動きをサポートする介助をします。
例えば、下肢筋力のある人がベッドから立ち上がる場合に「介助者が正面から抱えて力を入れて持ち上げる」のではなく、「本人がベッドの手すりをもって立ち上がろうとする動きを、介助者は背中や膝を支えながらサポートする」という方法です。 - 食事は自分で食べられる場合が多いですが、食べやすくするための食事の工夫(やわらかくする、とろみをつける)が必要になる場合があります。
③重度(要介護4・要介護5 ※)
介護の必要度
排泄、入浴、着替えなどに全面的な介助が必要になります。食事にも介助が必要になり、嚥下(飲みこみ)が困難になる場合もあります。
長く座ることが困難になったり、ベッド上の起き上がりや寝返りに介助が必要になります。
介助のポイント
- ベッドで過ごす時間が多くなりますが、可能な限り椅子に座る(ベッド上でも上半身を起こす)時間を持つことが大切です。椅子に深く座り、足底をしっかりと床につけ、腕をひじ掛けにのせると姿勢が安定します。
- 食事、排泄、入浴、着替えなど日常生活の大部分に全面的な介助が必要になってきますが、可能な限り本人のできる動作を引き出しながら介助します。
例えば、「立ち上がりや起き上がりの際に介助者の肩につかまってもらう」「ベッド上でのズボンの着替えやおむつ交換の際に腰をあげてもらう」「食事の際に最初は自分で食べてもらって、疲れてきたら介助に切り替える」などです。本人の残された力を維持することになり、介助者側も負担が軽減されます。 - 心身機能の低下が進むと、夜間にも頻回な介助(寝返り、おむつ交換、痰の吸引など)が必要になる場合があります。夜間の頻回な介助は介護者の身体的・精神的な負担が大きく、複数の介護者での分担と介護サービスの利用が必要です。
※要介護度については身体的な介護に着目した場合の目安です。認知症による介護の必要度が高い場合は、身体的な介護の必要度が低くても要介護度が高く判定されます。
2.場面ごとの介護のポイントと
具体的な介助方法
①食事介助のポイント
食時前
- 食事の際の姿勢が崩れると誤嚥(食物などが食道ではなく気管に入ってしまうこと)をおこしやすくなるので、安全な姿勢をとるようにします。
- 飲み込みをスムーズにするために食事前の準備運動(口周辺の運動、マッサージ)をします。
- 噛む力や飲み込む力に応じて、食事の形態(「やわらかくする」「とろみをつける」「ミキサーにかける」など)を工夫します。
食時中
- 要介護者がうとうとしていると誤嚥の危険があるので、声かけをして食事をすることをしっかり認識してもらうことが大切です。
- 口のなかが乾燥していると食べにくいため、一口目は飲み物にしたり、水分量が多いものから食べ始めます。
- 食事介助をする場合は、要介護者の横に座り目線を合わせながら行ないます。適切なひと口の分量やタイミングを考えて介助し、のどの動きを見て飲み込んだことを確認します。
食時後
- 食後は口腔ケア(歯磨きや舌のケア、入れ歯の清掃など)を行ないます。
- 必要に応じて、食べた食事の内容・量を記録します。
②排泄介助のポイント
要介護者の気持ちへの配慮
- 排泄介助は要介護者の自尊心を傷つけないことが大切です。例えば、排泄介助の際に下半身にバスタオルなどをかけるなどの配慮をします。
- できることは本人に任せ、できない部分を手伝うようにします。例えば、ひとりで便座に座ることに問題がなければ、トイレのなかでズボンを下げる介助まで行ない、排泄中はトイレの外で待機します。
- 排泄の介助を遠慮して、水分を取るのを控える要介護者もいます。脱水の危険がありますので、遠慮せずに水分をとってもうようにしましょう。
- 要介護者の状態によっては、排泄物から健康状態を把握するために尿や便を観察して、状態や量を記録します。
要介護者の状態にあわせた排泄介助
- 可能な限りトイレで排泄できるように介助します。福祉用具の活用や住宅改修によってトイレでの排泄の可能性が広がります。
- トイレまでの移動が難しくなったり、トイレが狭くて介助できない、尿や便の感覚があいまいになりがまんができない、などの状況の場合は、ほかの手段を考えます。
- トイレへの移動が難しい場合は居室にポータブルトイレ設置をします。夜間の移動は危険なので、日中の排泄はトイレ、夜間はポータブルトイレという人もいます。
- トイレ、ポータブルトイレでの排泄が難しい場合は、おむつでの排泄を行ないます(トイレで排泄している人でも漏れの対処としておむつを使用している場合もあります)。尿・便の量や使用用途にあわせてさまざまな種類のおむつが販売されていますので、適切なおむつを選ぶことが大切です。
③入浴介助のポイント
入浴前
- 脱水防止のために入浴前にコップ1杯の水分をとります。可能であれば入浴前に排泄をすませましょう。寒いなかで着替えると心臓や血管に負担がかかり危険ですので、脱衣所と浴室を温めておきます。
- 必要に応じて、入浴前に体温・血圧を測ります。かかりつけ医などに入浴可能な体温・血圧の目安を確認しておきます。入浴できない場合は、部分浴(手や足を湯につけて洗う)や清拭(蒸しタオルなどで身体を拭く)を行ないます。
- 入浴介助は全身の状態を観察できる機会ですので、皮膚の状態(傷、あざ、湿疹、乾燥など)に注意します。
入浴中
- 自宅の浴室の環境を、福祉用具(シャワーチェアやバスボードなど)や住宅改修(手すりの取り付けなど)で整えることで、本人の力で入浴ができる可能性が広がり、介助が必要な場合でも見守りや部分的な介助ですみます。
- 介護者は入浴時の転倒や浴槽内での溺水の危険に注意します。立ち上がりや浴槽のまたぎなどの動作が不安定な場合は、福祉用具を使って座った状態で浴室の出入りをする方法で介助します。
- 長湯は心臓や肺に負担がかかるので、一般的な高齢者の浴槽に入っている時間の目安は5分程度と言われます。個人差がありますので、かかりつけ医に確認しましょう。
入浴後
- 体に水滴がついていると、水滴が蒸発する時に体温が奪われてしまいますので、速やかにふきとります。
- のぼせや脱水を起こす危険がありますので、脱衣所でしばらく安静にしてコップ1杯の水を飲んでもらいます。
④ベッドでの介助のポイント
寝返り・起き上がり・立ち上がりは
体の自然な動きを意識して行なう
- 要介護者に動く力がある場合は、寝返り・起き上がり・立ち上がりの体の自然な動きを意識し、本人の動きをサポートする介助をします(例えば、立ち上がりの動作は、体の真上の方向に向けて立ち上がっているのではなく、足を引いて頭を前に出しながら立ち上がっています)。
無理に引っ張ったり、持ち上げたりする介助方法は要介護者、介護者双方にとって負担が大きくなります。 - 介護用ベッドの高さ調整機能、背上げ・膝上げ機能、手すりを利用することで、起き上がり・立ち上がりやベッド上の姿勢の保持などの介助の負担を軽減できます。
- 脚の筋力が衰えてしまった場合は、ベッドから車いすへの移乗に無理に立ち上がる必要はありません。ベッドの高さと車いすの高さを同じにして、立ち上がらず横にスライド(水平移動)する介助をします。
介護者は腰痛に気を付ける
- ベッド上の動作が全介助になり、負担の大きい介助を続けていると腰痛を引き起こします。腰部保護ベルトが効果的な場合もありますので、専門職に相談しましょう。
- 要介護者と介護者の体格の差が大きい場合は、ひとりで介護するのが難しくなります。その場合は、ホームヘルパーと家族の2人での介助やリフトなどの福祉用具を利用します。
⑤着替え、整容(身だしなみ)の
介助のポイント
着替えの介助の基本と衣類の工夫
- 脳血管疾患の後遺症で半身麻痺になった場合の着替えの介助の基本は"脱健着患"です。シャツやズボンなどを「脱ぐときは健側(障害のない手や足)から」「着る時は患側(麻痺や拘縮のある手や足)から」行ないます。半身麻痺の状態でも、健側の手足を使ってほとんど介助なしで着替えられるようになる場合もあります。
"脱健着患"は、骨折・ケガなどの場合、柔軟性の低下や痛みで動かしにくい場合にも当てはまります。 - 寝たきりに近い状態になった場合はベッド上で着替えの介助をします。介護者が大部分を介助する形になりますが、可能な範囲で「腕や足などを挙げてもらう」「腰を浮かせたり、体の向きを変えてもらう」など動作の協力を求めます。
- 衣類の工夫によって着替えをしやすくできます。ゆったりとしたサイズで、伸縮性のある生地の服を選んだり、リフォーム(大きなボタンやマジックテープに替えるなど)を行ないます。
- 服装によって「人に会いたい」「外出したい」という気持ちが生まれます。着替えのしやすさだけで着る服を選ぶのではなく、要介護者の好みやTPOにも配慮しましょう。
身だしなみの介助で心も体も快適に
- 整容(身だしなみ)の介助には、洗面・洗顔、洗髪・整髪、ひげの手入れ、爪の手入れ、耳掃除、化粧などがあります。身だしなみは身体を清潔に保つだけではなく、気持ちも前向きに過ごせるようになります。
- 高齢者の皮膚は皮脂や水分量が少なくなり乾燥しがちです。皮膚が傷つきやすく、内出血を起こしやすくなっていることに注意しながら介助します。
- 高齢者の爪は硬く、厚くなり、変形することもあります。状態によっては受診が必要な場合もあります。爪の状態が歩く能力にも大きく影響しますので、爪の手入れや状態の観察は大切です。
⑥難聴の対応のポイント
難聴を歳のせいと放置しない
- "耳が遠くなるのは歳のせいだから"と放置しないようにしましょう。耳鼻科を受診し、原因によっては改善することがあります。
- 難聴で周囲とのコミュニケーションが不足することで、本人も周りから疎んじられていると思い、遠慮したり、疎外感に陥りやすくなります。難聴が認知症へのリスクを高めるというデータもあります。
難聴の人とのコミュニケーション
- 加齢性の難聴は高い音が聞こえにくくなります。相手の正面に立ち、低めの声ではっきりと、少し大きめの声でゆっくり、ハッキリと話します。耳元で大きな声で話かけることは聞こえやすくなりません。
- パ行・タ行・カ行・サ行を明確にハッキリと話します。また、発声言葉の始まり(立ち上がり)に、しっかりと力を入れて話します。
- 補聴器の使用によって、周囲の人との対話・コミュニケーションが改善する可能性が高いです。必要に応じて補聴器で聴力を補うようにしましょう。