自立支援型介護を進める中でのリスクマネジメント
第2回 時間経過とともに変化する利用者の身体状況への対応
◇ポイント2 利用者の心と身体のバランスに目を配る
先のような事故を防ぐには、本人の身体機能だけを評価する視点では足りず、時間経過とともに生じる本人の心理面や疲労感の状況に考えを巡らすことが必要です。これを行なうには、「この訓練を行なうことが本人にとってつらくないのかどうか」、または「その時々の体調や覚醒状態に問題は生じていないか」などを総合的に推し量る習慣が求められます。
こうした習慣が特に問われてくるのは、認知症の利用者です。認知症の人の場合、「自分がどこまで動けるのか、歩けるのか」という認識が衰えていることがあります。そのため、「前へ進もう」という意識によって上半身は乗り出すのですが、足腰がついて行かないということが起こりえます。当然、重心のバランスは崩れることになり、そのまま前のめりに転倒してしまうというわけです。
注意すべきは、やはり「本人のできることを増やす」という自立支援の過程で、上記のリスクが高まりやすくなる可能性です。例えば、腕力と脚力がつくことで「椅子のひじ掛けに手をついて、立ち上がる」という動作が可能になったとします。しかし、自力歩行ができるまでの脚力が回復していない場合、先のように上半身と下半身の移動のバランスが崩れることになります。
これを防ぐ場合となれば、やはり「本人の身体機能」だけに着目しても不十分で、本人が「何をどのように認識しているのか」という、認知症の人の心の状態に寄り添うことが必要です。つまり、認知症ケアに関するスキルが十分に身についていることが必須であり、幅広い視点で利用者の心と身体のバランスを推し量ることが必要になるわけです。